広岡達朗「ユニフォームに袖を通すのは50歳まで」西武監督就任時に誓った信念
日刊SPA! / 2024年3月8日 8時50分
広岡は西本の育成能力の高さに心底舌を巻いており、プロ野球史上最高の監督とまで評価している。言うなれば、自分と同じように弱小球団を率いて、発展途上の選手たちを育てながら何度も優勝させた手腕への敬意でもある。
広岡は、近鉄監督への就任要請に即答しなかった。そうこうしているうちに阪神からも話が舞い込み、近鉄からの就任要請を丁重に断った。
「八一年の秋口、阪神球団社長の小津(正次郎)さんから連絡があった。早速会うと『まずは三年契約でどうですか』と就任を要請されたんだけど、あの頃の阪神は五年契約じゃないと選手が言うことを聞かないだろうと思った。三年契約だと選手たちが『どうせ三年経ったら辞めるし、どっかでヘマすれば途中で辞めてしまうだろう』とはなから監督をバカにしてしまう。
小津さんは『俺を信用したまえ』と言ったけど、『まだ信用できません。小津さん、三年契約だと選手たちの操縦法が難しい。五年契約ではどうですか? 三年で必ずものにしますから』と返した。結局、小津さんが首を縦に振らなかったから断った。監督をやるなら初めから五年契約でやらないと、本当の意味の改革ができない。正直、阪神に行ってもいいかなとは思っていた」
広岡が阪神の監督を引き受けていたら……。 伝統の一戦と呼ばれる対巨人戦で、阪神を率いる広岡が恩讐の巨人相手に立ち向かう図式はさぞ盛り上がり、歴史が大きく変わったかもしれない。
◆“球界の寝業師” 根本陸夫の謀略
日本プロ野球界で実質的なGMとして機能し成功を収めた先例は、やはり八〇年代の西武で〝管理部長〟として辣腕を振るった根本陸夫だろう。GMとは、チーム編成の権限を持つ者であり、ドラフト戦略やトレード、FAや外国人補強等、いかにしてチームを強くするかを担うポジションである。試合の采配や球団経営には携わらない。
八一年秋から西武の〝管理部長〟という要職に就いた根本は、近鉄、阪神の監督就任を断った広岡を監督に招聘するためすぐさま声をかけた。根本は、広島監督時代に広岡をコーチとして呼び寄せた男だ。根本には指導者としての資質はなかったが、人脈作りにめっぽう長けていた。
人脈に必要なのは情報とスピードだ。一歩出遅れたために、すんでのところでチャンスを取り逃がすことなど人生には山ほどある。百戦錬磨の根本は、情報収集とスピード感こそ肝だと心得ており、広岡が近鉄と阪神の監督就任を断ったという話が球界内を駆け巡る前にキャッチし、すぐに広岡へと接触を図ったのだ。
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