失意の五輪5位、一度は離れた大好きなスキー 19歳川村あんりに再び板を履かせた「限界」への探求心
THE ANSWER / 2024年4月19日 11時33分
■22年北京五輪でまさかの5位、26年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪で雪辱へ
フリースタイルスキー女子モーグル・川村あんりが「THE ANSWER」のインタビューに応じた。金メダル獲得を狙った2022年北京五輪はまさかの5位に終わり、失意から練習ができなくなった時期があるという。再起した日本モーグル界のエースは2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪で雪辱を期す。(取材・文=長島 恭子、ヘア&メイク=榊 美奈子)
◇ ◇ ◇
「速さ、綺麗さ、エアの高さ。モーグルは1本のランを見れば、スキーヤーが何に力を入れていて、だからそのランができるのか、ということが結構わかるんです」
22年、北京五輪の女子モーグルで5位入賞を果たした川村あんり。現在、2026年ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪を目指し、トレーニングを重ねている。
性格は「ビビりだけれど、負けず嫌い」。選手としての強みは、「諦めないところ。何度も挑戦できるところ」。
「例えばエア練習も、『やる』と決めた技が納得いくまでできないと、練習を終われません。着地時にほんのちょっと足が開いてもやり直し。板を担いて、ジャンプ台に上がります。コーチにやめておけと言われても、『コレ来た!』って思うまでは絶対に終われない。本当に諦めが悪いんです」
今まで、練習に行きたくないと思った日はほとんどない。「ひたすらに、ずっとスキーをしていたい」と声を弾ませる。
「練習終わりの帰り道で、『あー、スキーしたい! 早く明日にならないかな』って思うこと、結構あるんです。スキーヤーとして、目指すものがあって。毎日、そこに向かって、がむしゃらに走り続けているって感じです」
そんな彼女も、一度だけ、練習ができなくなった時期がある。
モーグルの魅力に改めて気づいた【写真:回里純子】
■練習ができなくなった北京五輪直後、再起のきっかけとなったこととは
川村は3歳でスキー、4歳でモーグルを始めた。世界で注目を浴びたのは15歳の時。初めて出場したワールドカップ(W杯)で世界2位になった。
「当時はW杯という大会が何かもわかっていなかった。大好きなスキーを滑り続けて、気づいたら表彰台に乗っていた、という感じ」
そして、北京五輪を控えた2021年12月、W杯で初優勝。日本の女子選手では上村愛子以来となる優勝を決め、金メダルの期待も俄然、高まった。
「五輪では限りなく完成に近い状況に持っていき、試合をしたかった。モーグル以外のすべてを投げ捨てて、詰めて、詰めて、練習をして過ごしました」
子どもの頃から憧れていた五輪。十分な準備と気合いで臨んだ結果は5位入賞。金メダルを目標に取り組んできた川村にとって、目標と結果の乖離に「何て説明したらいいのかわからない」ほどのショックを受けた。
「自分を尽くしたけれど、求めた結果が出なかった。夢見た表彰台が、本当に一瞬で現実にならなかったギャップに『あー……』という感じが続きました。
うまく言えませんが、現実感がなく、ただ日々が過ぎていく、みたいな。五輪でのメダルをゴールに設定しすぎて、モーグルで何を目指すのか一気にわからなくなってしまいました」
うまくいかないときはいつも、練習量を増やしたり、まったく違うことを取り入れたりすれば、自ずと突破口が見つかった。でも五輪後は違った。
「『このまま続けて、私は何が変わるんだろう?』と思うようになって……。モーグルを続ける意味を見失い、練習ができなくなりました」
五輪で受けたショックは、しばらくスキーと離れて過ごすことで、徐々に薄れていった。「自分は今後、何をしていきたいのか」。そう自分に問いかけ続けるうちに、進むべき道を取り戻した。
「突き詰めると私は、自分の限界を自分で決めず、どこまでやっていけるのかを知りたいんですね。そう思い至ったときシンプルに、あ、やっぱりモーグルがやりたい、もっとうまくなりたいって思いました」
川村にとってのモーグルの魅力は、想像以上に自分の限界を突破できることだと言う。
「モーグルは『イメージ通りの滑りがどこまでできるのか』というゴールのない世界。自分の体一つで、どんなスゴイことができるのか、周りを魅了することができるのか。それが、面白さであり、魅力です」
チャレンジし続けることを誓う【写真:回里純子】
■「競技をやめても、年齢を重ねても、スキーを続けたい。スキーヤーでいたい」
現在、川村は「理想的なカービングターン」を実現することに注力する。彼女は2年目のW杯シーズンから、カービングターンを採用。パワーにかける女子には難しいと言われるが、「板の動かし方や、こぶからの衝撃を吸収するタイミング。しっかり分析した結果、体の使い方を変えることで可能になると思った」。
最初に着手したことは、肉体改造。日常生活から体の使い方を変えた。
「例えば、座ったり歩いたりするときに左右均等に体重が乗らないと、一方のターンが絶対にうまくいきません。ですから、座り方、立ち方から矯正しました。リハビリテーションで行われるような、本当に地味なトレーニングですが、滑りの質の向上や大きな演技につながるようになりました」
変化の手ごたえを感じるようになったのは、実は昨シーズン(22-23シーズン)。つい、最近のことだ。
「私のチームがこだわるのは、今までとはまったく質の異なる、綺麗なターンを描くカービングターン。本当に難しい技術が要求されますが、かなり良くなってきているなって実感しています。でも、よくなれるところは、まだまだたくさんある」
15歳で初めてW杯に出場した当時、その世界のトップの選手がカッコいいと思っていた。しかし、19歳の今は、唯一無二のスキーヤーがカッコいいと思う、と話す。
「競技としての目標は五輪でメダルを獲ること。そして、大きな目標は誰もがやらないことにチャレンジし続ける、カッコいい選手……というか『スキーヤー』になることです。
選手って大会にバンバン出て、競技をやる方を指すじゃないですか。でも私は、競技をやめても、年齢を重ねても、スキーを続けたい。スキーヤーでいたいんです」
今シーズン、川村は残念ながら、ケガからの回復に専念するためW杯を辞退した。「私が最も熱中できて、チャレンジできるのがモーグルなんです」。取材時は楽しそうに、そしてグッと熱量を込めて話していた川村。彼女が想像する「限界を突破する滑り」に立ち会える日を、楽しみに待とう。
■川村 あんり/ Anri Kawamura
2004年10月15日生まれ、東京都出身。元アイスホッケー選手の両親のもとに生まれ、3歳でスキー、4歳からモーグルを始める。湯沢学園9年生(中学2年)の2018年JOCジュニアオリンピックカップに出場し優勝。翌2019年12月にフィンランドで開催されたW杯で国際大会デビューし、いきなり2位に。2019-2020シーズンの国際スキー連盟のW杯フリースタイルスキー女子部門で新人賞を受賞した。日体大桜華高在学中の2021年12月、日本女子としては上村愛子以来、11年ぶりのW杯初優勝を飾る。2022年、北京五輪出場。フリースタイルスキー競技女子モーグル決勝で5位入賞を果たす。
(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)など。
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