裏金問題「安倍派」で拡大した訳と改革派への期待 政治改革の裏で温存されていた日本的慣行
東洋経済オンライン / 2023年12月18日 18時15分
年の瀬に、にわかに拡大した自民党の裏金問題は、長年政治改革を論じた者にリクルート事件など30年以上前の疑獄事件を思い出させ、既視感を抱かせる。たしかに、自民党の腐敗体質は変わっていないようである。しかし、政治とカネのかかわり方自体には大きな変化がある。
リクルート事件、佐川急便事件の場合、有力政治家にわたったカネは賄賂やヤミ献金であり、そもそも汚れたものであった。他方、今回の疑惑では、カネの出所は1枚2万円のパーティ券を売り捌いて作った、一応合法的なカネである。
同じ腐敗でも、今回の事件は、疑獄事件というような性質ではなく、何とも「ショボイ」印象を持つ。政治資金規正法が強化されたことに対応して、カネの入りはある程度透明化された。それだけ改革の成果は上がっているといえる。
問題は、政治の世界では依然として支持者へのサービスや選挙対策、さらには党内で仲間との関係を強化するために、足跡のつかないソフトマネーが必要とされており、そのために政治資金収支報告書に載せない裏金が作られていたという現実である。内閣の場合、官房機密費という便利なソフトマネーがあるが、同様のカネは派閥や個々の政治家にも必要だったということであろう。
政治改革30年で起きた大変動
今回の事件が日本政治に与える衝撃を理解するためには、政治改革が始まった1990年前後からの30年余りの間に、政治に限らず日本の経済や社会で起きた大きな変動という文脈に位置づける必要がある。
かつての政治学では、民俗学や文化人類学を応用した政治文化論が盛んで、西洋起源の民主主義という建前と日本的な慣行との乖離や共存について、神島二郎や京極純一といった学者が説明を試みた。明治維新と敗戦によって政治制度の洋式化が進んだが、日本人はそれを独自な仕方で摂取した。
日本の政治、あるいは広く組織を動かすのは、イエとムラの原理だと京極は言った。イエ原理とは、家長の下で他のメンバーは服従するヒエラルヒー的秩序である。国家をイエ原理で運営すれば、官尊民卑が生まれ、組織では親分-子分関係が生まれる。
ムラ原理とは、組織のメンバーを画一主義や同調主義で拘束する秩序である。これらを基にして、経済の世界では日本的経営や企業主義が形成され、政治の世界では派閥や後援会が形成された。そして、戦後の高度成長期には日本的システムが政党、官僚組織、企業の各分野において機能を発揮した。
しかし、1990年代以降のグローバル化や情報革命の中で、洋式のルール(グローバル・スタンダード)が適用されるようになり、日本的システムは改革の対象となった。変化の過程では、従来のムラ秩序の中の「常識」や「慣行」が、洋式のルールを当てはめると犯罪になるという軋轢が起こることは避けられない。
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