独居の100歳女性、530キロを長距離移動した真相 ツアーナースの付き添いで神奈川から岩手へ
東洋経済オンライン / 2023年12月19日 12時40分
ツアーナース(旅行看護師)と呼ばれる看護師たちの存在をご存じでしょうか?
「最期の旅行を楽しみたい」「病気の母を、近くに呼び寄せたい」など、さまざまな依頼を受け、旅行や移動に付き添うのがその仕事です。
連載第2回は、神奈川県でひとり暮らしをする100歳の女性の、姪や弟が暮らす岩手県への移動に付き添ったエピソードをお送りします(本記事は「日本ツアーナースセンター」の協力を得て制作しています)。
自宅で一人暮らしをする100歳の女性の生活
今年100歳を迎える山本多江さん(仮名)は、6月まで神奈川県相模原市の自宅で一人暮らしをしていた。年齢相応の物忘れもあるが、ご近所との交流もあり、公的な介護サービスを受けることなく、生活することができていた。
ただ、足腰はかなり弱っており、毎日買い物に行くのはつらい。ここ数年は、お弁当の宅配サービスを利用する生活だった。
お弁当の宅配サービスは、ただ弁当を届けるだけではない。呼び鈴を鳴らし、利用者に玄関口まで出てきてもらって言葉を交わす。これも配達員の大切な役目なのである。
お弁当を手渡し、利用者の顔を見て話すことで、相手の健康状態や暮らしの様子などをチェックする。配達員は日々の見守りの役割も負っているのだ。
その日もいつもと変わらない水曜日だった。居間でお茶を飲んでいる時、「お弁当です」玄関口から配達員の声が聞こえた。もうそんな時間かと、多江さんはテーブルに手をついて立ち上がった。
玄関では、顔見知りの配達員がお弁当をぶらさげて待っていた。
「こんにちは、今日はブリの照り焼きです」
「毎日ありがとう」
「何か御用はありませんか」
そんな言葉を交わしているうちに昨日回覧板が来ていたことを思い出した。
「そうだ、回覧板、お隣に持って行ってくれる?」
「いいですよ」
「いつもごめんなさいね」
台所に置いてある回覧板を取りに行こうと振り返った時、多江さんは上り框に足先を引っ掛けて転んでしまった。
「大丈夫ですか」
慌てた様子の配達員に抱えられるように助け起こされた。立ち上がって2~3歩、歩いてみた。うん、なんでもないみたい。多江さんは、そのまま自分で歩いて台所から回覧板を持ってきた。
診断結果は「大腿骨頸部骨折」
異変を感じたのは翌日だった。訪ねてきたご近所の茶飲み友達に「歩き方、変じゃない」と指摘されたのだ。
「そうかしらね」
「うん、どう見ても変よ、左足を引きずってる」
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