「犬神家の相続」が近代日本の発展と終焉を示す訳 金田一耕助は「等価交換の男」ではなかった
東洋経済オンライン / 2023年12月19日 10時30分
東インド会社を起源とする500年の歴史を持つ「株式会社」制度。なぜ、このような制度が生まれ、現在まで続いているのか。その謎に迫った『株式会社の世界史──「病理」と「戦争」の500年』(平川克美著)を、映画『犬神家の一族』における共同体の描き方から、青木真兵氏が考察する。
怖さより面白さが勝る映画
僕たちはもう一度社会を再構築しなければいけないフェーズに入っています。
1990年代以降隆盛を極めた新自由主義的イデオロギーに染まった僕たちは、困っている人に手を貸しづらくなっていたり、自己責任論で冷笑的に社会を眺めたりしています。「果たして人間社会はどこに向かっているのだろうか」という疑問が頭をもたげます。インターネットなどのテクノロジーの発展によって人間は直接的なコミュニケーション機会を得ずに、不快を遠ざけて快を求めることで一人だけでも生きていくことを可能にしました。
しかし僕たちにとって「一人でも生きていける」ことは、本当の幸せに結びつくのかといったらはなはだ疑問です。生きる意味を求め出すも見つからず、他者との競争関係の中にしか存在意義を見出せなくなってしまっては、あまりに悲しい事態です。
このような状況のなかで、社会を再構築するヒントとなる映画が1976年に公開された『犬神家の一族』です。本作は横溝正史の長編推理小説が原作。かの有名な探偵、金田一耕助が登場します。大ヒットした漫画『金田一少年の事件簿』の主人公金田一一の祖父はこの耕助という設定です。
本作は殺人事件が次々と起こるサスペンスストーリーではあるのですが、明らかにコミカルな場面や人物が描かれ、怖いというより面白さが勝ります。バックに流れるジャズや服装、持ち物、家具などもオシャレで格好良いし、家族内であるがゆえのドロドロした人間関係や戦争がもたらした不条理な事情など、本当にたくさんの要素を詰め込んだ極上のエンターテインメント作品です。その後のさまざまなテレビ、映画で使われているネタ元の宝庫でもあります。
物語の舞台は信州長野。時代背景は太平洋戦争で日本が敗戦から2年が経った1947年だと考えられています。犬神家はその土地の一大製薬会社です。映画は、会社を一代で築き上げた犬神佐兵衛が亡くなるシーンから始まります。巨万の富を築いた彼が亡くなるということは、遺産相続の問題が巻き起こることを意味します。佐兵衛翁には男子の後継はおらず娘が3人いましたが、彼は生涯妻を持ちませんでした。その3人の娘はそれぞれが別々の妾の子だったのです。妾とは正妻のほかに愛し、扶養した女性のことをいいます。
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