日本企業が抜け出せなくなった貧乏"症"の正体 いつのまにか儲からない事業が氾濫している訳
東洋経済オンライン / 2024年1月3日 16時0分
また、実際に顧客向けにサービスを開始してから中身を修正していくというスタイルをとることも、場合によっては可能であり、有効である。しかし、日本のメーカーの多くは、完璧な品質の製品を作るまでは市場に投入しないという志向が強い(試作の段階で顧客に提供してフィードバックをもらって改善するという前例が自社内にない)ので、どうしても出遅れてしまう。
例えば先進的な技術を用いて、水素を簡易に運送できることを目指している企業がいたとする。その技術がまだ実用段階になかったとしても、太陽光発電業者に設備を持ち込んで、余剰電力で水を分解して得た水素を別の物質に変換するという実証をしようとすれば、他社の有する周辺技術も含めていろいろな実験ができて、新たな実用案も出てくるかもしれない。
しかし、社内の研究所にこもって完璧な装置を開発するまで外に行かないという前例が確立している企業の場合、社外の技術を取り入れる機会もなく、顧客の意見を反映させる機会もなく、時間だけが経過していってしまい、他社(欧米だけではなく中国企業も)のスピードに完敗してしまう。
日本企業がやりがちな不思議な行動
上述のような「前例踏襲型企業」の多くは、他社が手掛けていないビジネスには、成功事例がないので手を出さず、他社が手掛け始めたビジネスには(手本になる前例があるので)皆で参入するという、不思議な行動をとることもある。
「歯を食いしばる」ことで低コスト化すれば、いつかは勝てると思うのかもしれないが、隣の同業他社も同じ考えなので、いつまでも低価格競争が続いてしまう。
ましてや、海外企業が目をつけているようなグローバルな社会課題ともなると、よりスピードの速い海外企業が、いち早く顧客をまきこんでビジネスモデルを作り出してしまう。
顧客の「困りごと」に着目してビジネスモデルを立ち上げる場合、その顧客の意見を能動的に取り入れることが最重要なので、アイデアのかなり初期の段階から顧客を巻き込むことが必須になる。そのためには前例にとらわれることなく、軌道修正をしながらビジネスを立ち上げていくスピード感が欠かせない。
岸本 義之:武庫川女子大学経営学部 教授
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