赤福が手がける「洋菓子」はなぜ生まれたのか 餡をこねていた職人が突然ケーキを焼くことに
東洋経済オンライン / 2024年4月13日 11時30分
「やはり、弊社の商品の行き着くテーマは小豆とお米なんですよね。ちなみに『饌』という商品名は、神事で神様にお米などの穀物をお供えする『神饌(しんせん)』が由来です」(川瀬さん)
「あずきバターサンド」誕生秘話
また、川瀬さんの部下で「あずきバターサンド」を開発した奥田優那さんが洋菓子の職人として入社したのもコロナ禍でのこと。
奥田さんは専門学校で洋菓子を専攻していたが、卒業後は和菓子店で5年間働いていた。その経験を生かすことができたら洋菓子作りの幅が広がると思って入社したという。「あずきバターサンド」の開発は、バターサンドを和風にアレンジしてみようと思ったのがきっかけだったが、完成するまでには苦難の道のりが続いた。
「バタークリームと小豆をいかに馴染ませるかがカギでした。バタークリームは味と香りが強いので、どうしても小豆の風味が負けてしまうんです。そこでメレンゲを加えてふんわりとした口当たりにしようと思いました。でも、バタークリームとメレンゲの比率がつかめず、それぞれの分量を調整しながら作って、ベストな比率を見つけるしかありませんでした」(奥田さん)
「あずきバターサンド」は、2022年11月から試作と試食を繰り返して、翌2023年8月に発売された。時間の経過とともに出てくるメレンゲの水分を抑えるためにゼラチンを用いたり、小豆の旨味が抜けないように粒を残したまま茹でて、一晩ラム酒に漬けこんだりと、「あずきバターサンド」には洋菓子職人としての奥田さんの知識と経験、そして赤福餅で培った小豆の加工技術が詰まっている。
ちなみにクッキー生地は、三重県産小麦「あやひかり」と2種類の国産バターを使った「五十鈴茶屋」で人気の「おかげ犬サブレ」がベース。しかし、小豆の味と風味がより引き立つように、あえてあずきバターサンドではサブレそのものの香りを抑えて仕上げている。
メレンゲやゼラチン、ラム酒は洋菓子に使われるものだが、食べてみると、小豆の味と風味が前面に出ているため、和菓子に寄せていることがわかる。小豆のおいしさや風味を知り尽くしているからこそ生まれた唯一無二の商品なのだ。
「これからも小豆や餡にこだわり、お客様に喜んでいただけるような商品を作ってまいります」と、川瀬さんと奥田さんは口を揃えた。これからも赤福が手がける「五十鈴茶屋」の洋菓子に注目していきたい。
永谷 正樹:フードライター、フォトグラファー
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