大動脈解離の73歳「スペインから日本」目指す背景 異国の地で下半身マヒになった女性の帰国とは
東洋経済オンライン / 2024年4月20日 12時0分
ツアーナース(旅行看護師)と呼ばれる看護師たちの存在をご存じでしょうか?
「最期の旅行を楽しみたい」「病気の母を、近くに呼び寄せたい」など、さまざまな依頼を受け、旅行や移動に付き添うのがその仕事です。
連載第6回は、スペインのオルメドという町に夫婦で住むロレンソ文恵さんのお話。日本へ帰国中に大動脈解離を起こし、3年間国内で療養。その後、スペインに帰るも再発し、下半身マヒに。しかし、とある事情から家族での日本への移住を余儀なくされます。そこで登場したのが、ツアーナースと呼ばれる看護師でした(本記事は「日本ツアーナースセンター」の協力を得て制作しています)。
ロレンソ聖司さん(35)は悩んでいた。下半身マヒの母親を、家族だけで日本に連れて帰ることができるのか。スペインの片田舎から東京まで20時間を超える行程である。
ツアーナースの助けがあったからこそ、移送の旅は可能になった。しかし、計画を立て始めた当初は、ツアーナースの存在さえ聖司さんは知らなかった。
日本へ帰国中に起きた大動脈解離、スペインでの再発
スペインのマドリードから北に約150キロ離れた人口3600人ほどのオルメド。農業や畜産が主な産業の小さくてきれいな町だ。聖司さんの母、ロレンソ文恵さん(73)は、その町で大動脈解離を再発した。2023年2月のことである。
埼玉県川越市の自宅で、ご家族の話を聞いた。聖司さんは次のように語る。
「スペインのオルメドで倒れる4年前、母は日本で1回目の大動脈解離を発症しています。救急車で運ばれ、緊急手術が行われました。幸い事なきを得て、予後も悪くなかったんです。3年ほどして、様態も安定したので、父の住むオルメドに戻ったのです」
オルメドは、文恵さんの夫、ロレンソ・イエズスさん(77)の故郷だ。日本の大学で長くスペイン語を教えていたイエズスさんは、定年後に夫婦で生まれ故郷に帰るのが夢だった。
イエズスさんの話。
「65歳で仕事を引退した12年前、妻と2人で故郷に帰りました。それでも子供たちに会うために、年に2度、春と秋には日本に来ていました」
1回目の大動脈解離の発作は、夫婦で日本に帰国した数日後に発症した。現在は下半身マヒで、車椅子が手放せない文恵さんは、不自由な体ながら、快くインタビューに応じてくれた。
「車で聖司を駅まで送った帰りでした。運転中に突然胸のあたりに押さえつけられるような痛みを感じました。路肩に車を停めて、窓の外を見ました」
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