「空飛ぶ戦車」=「最強!」とはならず 「空挺戦車」がいまいちパッとしなかったワケ “軽さ”は別に活かされた
乗りものニュース / 2024年4月29日 6時12分
輸送機などで兵員を輸送し降下させる空挺部隊は登場以来、数々の奇襲攻撃などで活躍してきました。ときには戦車も空から降下させますが、なぜ「空から戦車」という手法が編み出されたのでしょうか。
空挺部隊の弱点を補うための戦車
敵の背後に空から降下し、不意を突き、瞬く間に拠点を制圧――飛行機やヘリコプターを使って兵員を運ぶ「空挺部隊」は、広範囲での作戦行動が可能で、奇襲効果も高いのが特徴です。ただ、兵士がそのまま降下する制約上、その装備には制約があります。
とはいえ、小さな携行火器しか使えないと、敵の地上部隊と正面から戦闘するにはかなり不利です。そこで過去には空挺部隊と一緒に戦車を運んで、一気に問題を解決しようと、「空挺戦車」なるものが考え出されました。
空挺作戦が頻繁に行われるようになった第二次世界大戦序盤、降下手段はパラシュートしかなく、10t以下の比較的軽い戦車でも降下させることは不可能でした。
しかし、軍用グライダーという解決策が大戦中に考えられます。イギリス軍はノルマンディー上陸作戦をはじめ大戦後半での反攻作戦で、大型軍用グライダー「ハミルカー Mk I」を運用しますが、これに、少数ながらMk.VII「テトラーク」軽戦車を搭載し、作戦に使用しました。
戦後の冷戦期には、大規模な空挺作戦で相手の背後を攪乱するのが重要な戦略と考えられ、特にアメリカで空挺戦車の開発が活発になりました。
本格的な戦車を作ってみたものの…
アメリカ軍では1953年にM56空挺対戦車自走砲が、1965年にはその後継車両となるM551「シェリダン」という空挺戦車が採用されました。両車両ともアルミ合金製で、重量はM56が約7t、「シェリダン」は約15tしかありません。ちなみに、両車両が運用されていた時期に陸上自衛隊が運用していた61式戦車の重量は35tです。
徹底した軽量化により、アメリカ軍の空挺戦車はそれまでのように、グライダーに搭載したまま降下させるのではなく、空挺部隊の兵士と同じく輸送機からのパラシュート投下やヘリコプターでの運搬が可能になりました。
M56は砲塔が正面以外むき出しのいわゆるオープントップで、砲の旋回が遅いなどの問題がありましたが、「シェリダン」ではその点を改善。通常の戦車のような砲塔と152mmガンランチャーという、砲弾と対戦車ミサイルの双方が発射可能な大口径砲を搭載し、武装の面でも強化されました。
しかし、空挺戦車が大量に降下し、敵基地を急襲、制圧するということは起きませんでした。輸送機に搭載する重量の関係から採用されたアルミ合金の車体は、対弾力という点では最低限であり、対戦車戦や地雷耐性が厳しいのはもちろん、敵兵が現地で手作りした携行対戦車武器も脅威となる有様でした。
さらに「シェリダン」の初実戦投入は1960年代のベトナム戦争で、空挺戦車には不向きの湿地帯や熱帯雨林での戦闘だったため、頼みのガンランチャーも装填できなくなるトラブルや不発が相次ぎました。1989年のパナマ侵攻では初めて空挺投下されますが、約半数が着地時に破損、故障したといわれ、当初思っていた性能は発揮されることがありませんでした。
副産物で世界最速の戦車も作られる!?
また、空挺戦車を実戦投入した先駆者であるイギリスでも1970年代に、FV101「スコーピオン」という車両が開発されます。同車両は、偵察用装甲車と、空輸可能な空挺戦車を統合した戦闘車両として構想され、車体素材は「シェリダン」と同じくアルミを使用。さらに、市販のジャガー製XK6直列6気筒液冷ガソリンエンジンを改造して積むことで、軽量化と省スペース化を実現します。
その重さはわずか8tしかなく、C-130「ハーキュリーズ」に2両格納して運べるほか、大型ヘリコプターでも吊り下げて空輸可能。それでありながら、76mmカノン砲を搭載し、HESHという特殊な砲弾を使えばソ連製のT-55戦車でも撃破が可能でした。
しかし「シェリダン」同様、装甲に関しては重機関銃の弾丸や砲弾の破片から身を守る程度のもので、さすがに戦車の相手は無理だと判明します。しかし、主にその足の速さを活かした偵察車両として、イギリスほか複数の国で運用されることになりました。
同車両は重量を軽くした影響でかなりのスピードが出るようになっており、最高速度はタイヤをはいた装輪戦車並みの最高速度82.2km/hといわれています。これはギネス世界記録としても認定されており、2024年現在でも「世界最速の量産戦車」となっています。
なお、冷戦時代には、いわゆる西側陣営だけではなく、東側陣営のリーダーであったソビエト連邦でも空挺降下可能な装甲車としてBMD-1を1968年に配備します。その後、実戦でのデータも得つつ1980年代にBMD-2、1990年代にBMD-3と続きますが、冷戦終結後、全面戦争での大規模な空挺作戦の起こる確率はほぼなくなり、戦車は空中投下より、戦地近くの基地に直接空輸した方がよいという結論になりました。
その後、空挺部隊車両としては装甲車が残ったのみで、ソ連の軍事技術を引き継いだロシアでも、空挺戦車の開発はストップしています。
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