船も「スマホ化」? ついに建造「EVコンテナ船」海運を変えるか 電気も“貨物”!? 永遠に古びないかもしれないコンセプトとは
乗りものニュース / 2024年5月1日 9時42分
日本初となる「EVコンテナ船」の建造が決定。発電機とモーターを組み合わせて推進する、クルマでいうプラグインハイブリッドの船であるだけでなく、「交換式コンテナ型蓄電池」を積載することで動力を補います。船ならではの発想で、船の電動化を図ります。
その手があったか「交換型コンテナ蓄電池」
内航コンテナ船社の井本商運と マリンドウズ(Marindows) は2024年4月、日本初となる“交換式コンテナ蓄電池”を用いてゼロエミッション航行が可能な内航コンテナ船を建造し、神戸―広島航路で実証実験を行うと発表しました。Marindowsの末次康将CEO(最高経営責任者)は「第2世代型のEV(電気推進)船にして量産型モデル。仕上がりが良ければ2番船以降も投入していきたい」と意気込みます。
今回、建造が決まった内航コンテナ船は499 総トン型ですが、コンテナの積載個数は既存の749総トン型コンテナ船「まや」に匹敵する約 200TEU(20フィートコンテナ約200個分)となっています。GHG(温室効果ガス)の排出を大幅に削減するため、大容量蓄電池とディーゼル発電機を組み合わせて推進用の大型モーターを駆動させるシステムを採用したハイブリッド型のEVコンテナ船です。
全長は 81m、全幅は13.5m、深さは6.6m。推進出力360kWのモーター2基を搭載し、12.5ノット(時速約23.2km)の速力で航行が可能です。ハイブリッドモードでの航続距離は2700マイル(5000km)。大分県佐伯市の三浦造船所で建造され、2027年1月の竣工を予定します。
同船は“第2世代EV船”と位置付けられており、PHEV(プラグインハイブリッド)専用プラットフォームとして標準化・モジュール化されたシステムに最適化されたEV船専用船型が取り入れられています。離着岸時などは船内のバッテリーから、停泊中は陸上から給電を受けることで、港湾内と停泊中のアイドリングストップとゼロエミッション化を達成します。
これに加えて同船では20フィート型コンテナ蓄電池を搭載することで、ゼロエミ航行時の航続距離拡大を図っています。容量2000キロワット時のコンテナ蓄電池5本を使用した場合の航続距離は180マイル(333km)ですが、本数と容量によってさらに延ばすことも可能です。
末次CEOは「陸上で充電を行ったコンテナ蓄電池を船上に乗せて、そこからの給電で運航を行うことを想定している」と話します。
「例えば神戸でコンテナ蓄電池を搭載し、ゼロエミモードで広島まで航行する。広島港に入港すると船にプラグを挿してバッテリーへ充電するのではなく、コンテナを陸揚げし、充電済みの蓄電池と交換。またその蓄電池を使って航行し、神戸港に到着したら交換してという感じに繰り返していく」(末次CEO)
井本商運は再生可能エネルギー由来の電力を調達してコンテナ蓄電池に充電し、それを新造コンテナ船の推進に使うことを計画しています。これにより船の運航時のみならず、燃料の採掘・製造から使用までCO2を排出しない完全ゼロエミッションを実現していく予定です。
「5年で船長になれる船」に 海運業界を変える?
こうした点が評価され、EVコンテナ船のプロジェクトは、環境省の「地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業」に採択されました。実証期間は2024年4月から2027年3月までとなっています。
EVコンテナ船はまず1隻が建造されますが、主要機器やシステムの標準化・モジュール化によって量産化が可能です。また、神戸―広島航路はマツダなどの自動車部品輸送を行っています。自動車会社はCO2削減への感度も高いことから、ゼロエミッション運航可能なコンテナ船がさらに投入されればサプライチェーン全体のGHG削減にも寄与できるでしょう。
末次CEOは「神戸―広島航路はコンテナ船を4隻投入している。今後、2番船、3番船、4番船と増やしていきたいと私は思っている」と話します。
「より少人数、省スキルで船を動かせるようにすることが狙いだ。今、トラックドライバーが2024年問題で稼げなくなり、船員に転職するという事例も出てきている。そういった船員でも5年ぐらいで船長にまでなれるようにしていきたい」(末次CEO)
実際、EVコンテナ船には内航船向け次世代コックピットシステム(操舵室)と離着桟支援システムの実装し運航時の負担を軽減するとともに、船上で熟練者が整備するのではなく、陸上のエンジニアが寄港地でメンテナンスできるような体制も整えていく予定です。
さらにこの船は、将来的に水素燃料電池やバイオ燃料、合成燃料などに対応する発電機に換装することも想定。将来の新規技術・システムの導入にも柔軟にアップグレード可能な設計を採用するとしています。技術が発展途上なうえ、価格も高いEV船が抱える「船の陳腐化」というリスクを最小限に抑え、同じ船(ハード)を買い替えずにソフトウェアをアップデートしていくという発想です。
ハイブリッド方式を採用したことで、EV船のインフラが整備されていない東南アジアなど海外への売船も視野に入っています。
Marindowsの末次CEOは、旭タンカーが保有する世界初のピュアバッテリータンカーである「あさひ」(492総トン)や2番船の「あかり」(497総トン)、ハイブリッド型電気推進貨物船「あすか」(496総トン)、東京汽船の電気推進タグボート「大河」(約280総トン)にも関わっています。第2世代型EV船の開発で、船の電動化が進んでいくことが期待されています。
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