アングル:ホームレス化の危機にAIが救いの手、米自治体で実験進む
ロイター / 2024年4月20日 8時7分
4月15日、 昨年6月に家賃の支払いが遅れ、大家からロサンゼルスの賃貸住宅を夫とともに退去してもらうと言われたベレアナ・サンチェスさんは、目に見えないアルゴリズムの力によって救いの手を差し伸べてもらった。写真はロサンゼルスのアパート。2022年1月撮影(2024年 ロイター/Carlos Barria)
Carey L. Biron
[ワシントン 15日 トムソン・ロイター財団] - 昨年6月に家賃の支払いが遅れ、大家からロサンゼルスの賃貸住宅を夫とともに退去してもらうと言われたベレアナ・サンチェスさん(33)は、目に見えないアルゴリズムの力によって救いの手を差し伸べてもらった。
サンチェスさんのピンチを見つけ出したのは、ロサンゼルス郡が12カ月以内にホームレスになる危険がある住民を探し出すために試験的に導入した人工知能(AI)だったのだ。
このAIは同郡の刑務所や病院、各種セイフティーネットプログラム、ホームレス動向、児童養護制度などのデータを分析し、路上に放り出される恐れがあるとみなされる10万人のリストを作成している。
自治体当局はそのリストに基づいて相談に乗ったり、現金まで支給したりして人々が「お手上げ」になるのを防ぐ。
実際、サンチェスさんも郡の担当部門から至急連絡してほしいとの手紙を受け取り、すぐに担当職員と話ができて、さまざまな医療福祉プログラムに加入するとともに、金銭的支援を受けて家賃や自動車の修理費などをねん出した。
サンチェスさんはトムソン・ロイター財団に「あのままならば恐らく、私は家を追い出されていた。私と夫は窮地に陥っていて、前に進むにはどうすべきか分からなかった」と振り返る。
AIを活用するロサンゼルス郡の実験が始まったのは2021年。ロサンゼルスを含む幾つかの都市では緊急事態宣言を出すほどホームレス危機への対応が難しくなっている中で、別の地域でもより小規模な形でそうした取り組みが進行している。
ロサンゼルスの場合、ホームレス予防部門がこれまでに対応した数百人のうち、約87%はプログラム終了後も家に住み続けられている、と郡の厚生局でホームレス予防に従事するダナ・バンダーフォード氏は説明した。
バンダーフォード氏は「彼らが危機に直面しているのを発見して電話をすると、彼らは『どうやって私を探してくれたのかは知らないが、来週にも家を失いそうで何をすべきか分からない』と回答する。われわれはどこからともなく出現し、介入して危機を解決できる。本当に誇らしい」と話す。
カナダのカルガリーでも、ホームレスのリスクを予知する上でAIが使われている。このプロジェクト開発を支援しているカルガリー大学のジェフリー・メシア氏は、ロサンゼルス郡の実験は事態を一変させる力を秘めていると評価。「ちょっとした分岐点になると期待している。助けを必要とする人々を特定する上で、機械学習が適切な役割を果たした初めての事例だ」と指摘した。
<正しい使い方>
米住宅都市開発省によると、2023年に全米でホームレスを経験した人は65万3000人余りと前年比で12%増加した。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校のカリフォルニア政策研究所でエグゼクティブディレクターを務めるジャニー・ラウントリー氏は、最近の調査から一回だけの現金支給やその他の支援措置だけで、ホームレス拡大の流れを止められることが分かっていると強調する。
昨年ノートルダム大学が公表した調査では、カリフォルニア州のサンタクララ郡でホームレス危機にさらされていた人の81%は、半年にわたる金融支援プログラムを適用されているうちにそうなる確率が低下した。
ラウントリー氏は「(困窮)世帯を適切なタイミングで把握し、債務や家賃の支払い援助のために2000─6000ドルを支給すれば、住宅を安定的に維持する態勢に戻すことが可能だ」と述べた。
同氏はロサンゼルス郡の実験につながる調査研究を主導し、この実験の評価作業にも関与している。
ただ、当局はまず援助が必要な世帯を見つけ出さなければならず、その分野で試験的に導入されたのがAIだった。こうした世帯が判明すれば、郡のホームレス予防部門からジョセリン・バタス氏のような専門のマネジャーが派遣される。
バタス氏の話によると、突然、対象世帯に電話をかけて自己紹介しても最初は疑いを持たれる場合があり、詐欺ではないと納得してもらった上で、まずは個々の住宅費用や公共料金などの状況を知り、適格者には数日以内に金銭的な支援や融資、就職、保険加入なども世話もする。さらに精神的な支援も提供するという。
専門家の一人は「これは従来なら接点を持てなかった危機的な世帯と確実につながるための正しい技術の使い方だ」と述べた。
<支援の効率化>
ハーバード大学のスティーブン・ゴールドスミス教授(都市政策)も、AIは人間が作業するよりも最も支援が必要な世帯を効率的に発見してくれると説明。「(ホームレスの)予防は複雑なので、AIが個々のニーズに応じて必要なサービスに焦点を当てることで、各都市はより効率的に動ける」と付け加えた。
新型コロナウイルスのパンデミック期間にホームレスの数が倍増したカナダのオンタリオ州ロンドン市でも、AIが活用されつつある。同市幹部のクレイグ・クーパー氏は、既に一時宿泊施設に入っている人々のデータを分析して一番危機的な人を探り当てるためにAIが使われ、今のところ精度は非常に高いようだとの見方を示した。
ロサンゼルス郡のサンチェスさんは、支援プログラム期間を終えて数カ月で元通りの生活に戻ることができて感謝している。健康面の問題も解消し、6月に高卒資格を得て子どもも生まれる。
同郡のAIによる実験で「多大な援助を得られ、今はこの場所がより安全だと感じられる」という。
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