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国立大もネーミングライツ…企業は学生へのPR効果を期待、4分の1に値下げしても買い手つかないケースも

読売新聞 / 2025年1月11日 15時0分

 国からの運営費交付金が削減され、財政状況が厳しい国立大学で、学内施設の命名権(ネーミングライツ)を民間企業に売り出す動きが広がっている。自主財源を確保し、収益を設備改修費などに充てることが狙いだ。ただ、金額の設定が難しく、高額案件は苦戦している。

10億円不足

 年額最低6000万円、5年以上――。東京芸術大・上野キャンパス(東京都台東区)のコンサートホール「奏楽堂」(1100席)に愛称を付けられる命名権の金額だ。芸大初の試みで昨年10月に募集を始めた。愛称は外壁や案内看板などに表示される。

 1998年に完成した奏楽堂は、音響を変化させる可動式の天井やパイプオルガンを備えた芸大の象徴的施設だ。しかし、老朽化で設備の不具合が頻発している。2028年度から大規模改修する計画だが、物価高で改修費は想定より10億円上回る見込みだ。

 命名権料は改修費に充てる予定で、日比野克彦学長は「金額は他のホールの事例などを参考にした。将来の音楽界を担う学生の育成に、ぜひ協力をお願いしたい」と呼びかける。

安定した財源求め

 国立大は04年度にそれぞれ独立した法人となり、自主財源の確保を迫られるようになった。研究費などに充てる国からの運営費交付金は、同年度からの20年間で全体で13%減らされた。

 文部科学省によると、23年3月時点で、国立大86校のうち36校が命名権事業に取り組んでいた。

 22年度の集計では、29校が108件の契約で計約1億6000万円の収入を得ていた。契約金額は年間数十万円から数百万円が相場とみられる。24年は東北大や岩手大、長崎大などが初めて命名権を売却し、信州大などが公募を始めた。

 企業にとっては、学生への宣伝効果だけでなく、教育支援を社会にアピールできるメリットもある。

 名古屋工業大も昨年3月に初めて、精密機器大手「セイコーエプソン」(長野)に命名権を売却。学習スペースの愛称は「エプソンスタジオ」になった。名工大はこれまでに計7施設で企業と契約を結び、今も別施設で公募を続ける。金額は非公表だが、施設企画課は「安定的な自主財源としていきたい」とする。

 大学施設ならではの利点もある。

 女性技術者の採用に力を入れる住友重機械工業(東京)は、奈良女子大が工学部を新設した22年に命名権契約を締結。翌年、採用ホームページの奈良女子大生の登録者数が、前年の1・5倍に増えた。同社の広報担当者は「学生の認知度が高まった」と喜ぶ。

企業が魅力感じる契約に

 一方で、高額案件は苦戦が目立つ。

 九州大は、伊都キャンパス(福岡市)に建設した中央図書館の開館に合わせ、18年から年間1億円で命名権者を募っているが、今も企業の手は挙がらない。

 佐賀大も13年度から、年間最低2000万円で大学美術館の命名権を公募し、24年度に500万円に値下げしたが、買い手はつかない。同年度から対象を講義室や駐車場など188か所に広げ、最低額を10万円や20万円にすると、8件が成約した。企画管理課の担当者は「企業目線で契約内容を見直した成果」と話す。

 命名権に詳しい鳴門教育大の畠山輝雄准教授(人文地理学)は「学生と教職員が利用の中心となる大学施設の命名権は、公共施設と比べてPR効果が少ない」と指摘。「大学ホームページへの広告掲載や共同事業の実施を契約に盛り込むなど、企業が魅力を感じる内容にする必要がある」と述べている。

「味の素スタジアム」が公共施設先駆け

 日本の公共施設でのネーミングライツは2003年、東京都調布市の東京スタジアム(設置者・東京都)が「味の素スタジアム」となったのが先駆けとされる。現在、同スタジアムの命名権料は5年間で10億5000万円だ。「パナソニックスタジアム吹田」(同・大阪府吹田市)は5年間で10億円、「ロームシアター京都」(同・京都市)は50年間で50億円などと高額契約も目立つ。

 畠山准教授が18年に自治体を対象に実施した調査では、契約金総額の平均は3690万円だった。契約期間は5年や3年が多く、単年では1000万円前後となる。

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