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違憲判決は「当然の結論」?LGBTQ訴訟に携わる弁護士の思いとは 「座して待つわけにはいかない」権利擁護へ続く挑戦

47NEWS / 2024年10月7日 10時0分

性的少数者の権利擁護に取り組む堀江哲史弁護士(左)と水谷陽子弁護士=2024年5月、名古屋市

 2023年5月、名古屋地方裁判所で、同性同士の結婚を認めない民法などの規定は憲法違反だとの判断が出された。その年の10月には静岡家庭裁判所浜松支部で、性別変更には実質的に生殖能力をなくす手術が必要だとする法律の規定は違憲だとする考えが示された。
 いずれも、社会状況の変化を反映した画期的な司法判断にみえる。しかし、2つの訴訟に関わった堀江哲史弁護士(45)は至って冷静だ。「まっとうに審理すれば当然の結論なんですよね」
 名古屋市の法律事務所長を務める堀江さんは、同じ志を持つ水谷陽子弁護士(35)とともに、LGBTQといった性的少数者の支援や権利擁護に取り組んでいる。「座して待つわけにはいかない」と形容する2人の闘い。これまでの道のり、そして今後の課題とは。(共同通信=平等正裕)

※筆者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

▽弱い立場の力になりたい


堀江哲史弁護士=2024年5月、名古屋市

 名古屋城や裁判所に近く、多くの法律事務所が点在するオフィス街の一角に「ミッレ・フォーリエ法律事務所」はある。耳慣れない名前はフランス語の「ミルフィーユ」のイタリア語だ。設立した堀江さんが名字と趣味のお菓子作りにちなんで付けた。堀江さんは「『堀江法律事務所』みたいに名字をそのまま事務所名にするのが照れくさかった」と笑う。
 三重県出身の堀江さんは、小学生の頃に愛知県大府市に転校した。そこで、方言やなまりをからかわれ、いじめの対象となったという。先生や親など、周囲の助けで解決したが、転校へのネガティブなイメージは残った。同時に、それが将来像を形作ることにもなった。「転勤がなく、弱い立場の人の力になれる仕事がいいと思い、弁護士を意識しました」
 大学で法学部に進み、司法試験に挑戦したが苦戦した。2011年まで実施されていた旧試験は難易度が高く、不合格が続いた。仕事をしながら勉強を重ね「これで落ちたら諦めよう」と挑んだ31歳の秋、11回目にしてようやく合格した。旧試験が最終となる2010年のことだった。
 弁護士として入った名古屋の事務所では、性別を女性から男性に変えた申立人の親子関係を巡る裁判に携わった。申立人は、自分と、第三者の精子提供で妻との間に生まれた子どもが、父子関係にあると認めるよう国に求めていた。最高裁まで争われ、2013年に父子関係を認める決定が出された。
 2020年に独立し、現在の事務所では、男女問題が関係する事案などを手がけている。

▽「女の子だから」への疑問


水谷陽子弁護士。当事者が相談しやすいように多様な性を象徴する虹色のリストバンドを身につける=2024年5月、名古屋市

 堀江さんの事務所には〝同士〟がいる。水谷陽子弁護士(35)だ。
 幼い頃、「女の子だから」と家事の手伝いをさせられたり、2歳年上の兄とお小遣いの金額に差をつけられたりすることに疑問を感じていた。実家を離れ、東京の大学に進学し、社会問題を学ぶサークルで知ったのがジェンダーの概念だった。
 「女子として扱われることにすごく違和感があったんですけど、当時はそれが自らのアイデンティティーなのか、周囲の言動への拒否感なのかよく分からない状況でした。男女間の不平等をやめていこうって声を上げていいと知ることができたのは、自分のアイデンティティーを把握していくうえでもすごく大きな出来事でした」
 思えば子どもの頃、女子の同級生がしていた好きな男の子の話にうまく入ることができなかった。女子というカテゴリーで集団行動をとる体育の時間や修学旅行にはどうしてもなじめない。理由が分からないため、自己肯定感が低く、自分は何かが足りない、劣った存在だと考えていた。
 自分の苦しさは社会の男女不平等だけに由来するものではないと思い、性的少数者の当事者が集う場所に顔を出した際「ようやく息がしやすい場所を見つけたと思った」。今では自身について、男性にも女性にも当てはめない「ノンバイナリー」という性自認が一番しっくりくるという。
 司法試験に合格して弁護士となり、東京や名古屋の別の法律事務所を経て、性的少数者支援のネットワークを通じて知り合いだった堀江さんの事務所に移った。

▽社会の変化が後押しに


同性婚を巡る名古屋地裁判決を受け、「違憲判決」と書かれた紙を掲げる堀江弁護士(左)ら=2023年5月、名古屋地裁前

 2024年6月27日、名古屋高等裁判所の法廷。傍聴席には若い人の姿が目立つ。記事冒頭で紹介した、同性同士の結婚についての民法規定を巡る裁判は、舞台を地裁から高裁に移して続いていた。
 原告は愛知県の男性カップルで、被告は国。この日は原告本人が意見陳述し、法的な婚姻制度が必要だと訴えると、代理人を務める堀江さんと水谷さんは深くうなずいた。水谷さんは裁判長に「年度内に判決を出してほしい」と迫った。
 堀江さんは性自認や性的指向を巡る問題について「一番分かりやすい種類の人権侵害だ」と強調する。「性」は個人の人格的生存の中核にあり、人が生きる上で様々な場面に関わってくるからだ。「実際、地裁や高裁段階では結論ありきのような解釈で退けられても、最高裁まで争えば、素直な法解釈で訴えが認められるケースが続いている」と語る。
 弁護士になって10年余りで社会の変化をありありと感じている。2010年代前半は経営者の勉強会に招かれた際、LGBTという言葉の意味から説明しなければならなかったのに対し、現在ではハラスメント対策などについて積極的に助言を求められる。同性同士のカップルを巡っても、2015年に国内で初めて東京都渋谷区と世田谷区が導入した「パートナーシップ制度」が全国に波及。相次ぐ司法判断の要因は、こうした変化を追い風に、声を上げて裁判の場に、訴え出る当事者が増えたことが大きいとみる。
 同性婚に反対する立場の人の間では、パートナーシップ制度に異性の夫婦と同等の法的権利を付与し、国単位に広げればいいとの意見も根強い。だが、水谷さんはその考えを「同性カップルは、婚姻とは別の制度しか使うことができない人たちだという烙印を新たに押すことになる。海外でも同性婚を導入する国が増えている中、逆行するメッセージにほかならない」と疑問視する。

▽座して待つわけにはいかない


性的少数者の権利擁護を訴えるパレードに参加した水谷陽子弁護士(右端)=2024年6月、名古屋市

 6月中旬の土曜日、名古屋市中心部で開かれた性的少数者への理解を広めるイベントの会場に2人の姿はあった。来場者に各地の訴訟の進行状況を説明。パレードにも参加した水谷さんは「沿道の反応も良く、受け入れられつつあると感じた」と顔をほころばせた。
 個人の性的指向や性自認を尊重する意識は若い世代ほど高い傾向にある。ただ、たとえ法整備が進もうとも個人の意識が変わるのには時間がかかる。堀江さんは先行きに希望をにじませながらも、こう強調した。「時間がたてば解決する問題もあると思うが、当事者への権利侵害は現在も続いており、座して待つわけにはいかない。少しでも解決を早める動き方をしたいし、セクハラやパワハラ問題のように、多くの弁護士が解決に向け取り組むようになるのが理想です」

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