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「若返りに成功した五輪」トルシエジャパンの通訳ダバディーさんが見たパリ五輪の現実  パラはバリアフリーに課題、2人の日本人選手を称賛

47NEWS / 2024年10月7日 10時30分

7月に閉幕した世界最高峰の自転車ロードレース、ツール・ド・フランスで地元テレビのリポーターを務めたフローラン・ダバディーさん(左)(株式会社Sorriso提供)

 熱狂に包まれたパリ五輪・パラリンピックが閉幕して10月8日で1カ月。サッカーの2002年ワールドカップ日韓大会で日本を指揮したフィリップ・トルシエ監督を通訳兼アシスタントとして支えたフローラン・ダバディーさん(49)は、生まれ育った芸術の都で開かれたスポーツの祭典をどう見たのか―。

 1世紀ぶり3度目のパリ五輪は「古い五輪と新しい五輪のターニングポイントで若返りに成功した。まだ希望がある。無気力とも言われる若い世代を会場に引き出した」と総括。一方、パリでは初開催のパラリンピックには「パラスポーツへの理解とともに地下鉄など公共交通機関のバリアフリー化が遅れており、問題を浮き彫りにした」と課題を指摘した。(共同通信=田村崇仁)

 ▽新聞も売り上げ絶好調

 小津安二郎監督の映画「東京物語」に感銘を受けて大学で日本文化や文学を学んだ異色の経歴を生かし、1998年に映画雑誌の編集者として来日したダバディーさん。近年はキャスターや作家としても活躍するほか、母国フランスの地元スポーツ紙「レキップ」の日本特派員を務める。父親のジャンルーさんは多くの映画を手がけた著名な脚本家として知られ、母親のマリーさんもインテリア誌の編集長を経験した芸術系の一家で育った。

 大会前はテロの懸念や政治の混乱が取り沙汰されたが、フランスは競泳男子のレオン・マルシャンや柔道男子のテディ・リネールらが活躍して金メダル16個、メダル総数64個と躍進。予想を大きく超えた盛り上がりに「マルシャンは100年に1人の宇宙人。ひきこもり的なフランスの若者を触発し、混沌とする移民社会で国民が一致団結して燃えた大会だった」と驚きを持って振り返る。


7月に閉幕した世界最高峰の自転車ロードレース、ツール・ド・フランスで地元テレビのリポーターを務めたフローラン・ダバディーさん(株式会社Sorriso提供)

 「街全体を五輪公園に」(イダルゴ・パリ市長)と宣言し、都市型スポーツを集めたコンコルド広場が若年層の象徴的な場所になったと強調し「若返りしようという雰囲気がすごく感じられた。五輪最多記録を更新したチケット販売だけでなく、国営テレビの視聴率は驚異的で、レキップを含めて紙媒体も売り上げが絶好調だった。購買者は写真が大きくきれいで、永久保存版として、歴史的な瞬間を取っておきたいという衝動がある」と述べた。

 地元紙パリジャンでは、テロの懸念や高額チケットなど負の要素が多かったスポーツの祭典を避けてバカンスでパリから旅立った市民から「後悔」の声も次々と伝えられた。

 ▽ハイライトは開会式

 ダバディーさんは「スポーツと文化の融合」を自身のライフワークとしており、セーヌ川での斬新な開会式をパリ五輪のハイライトに挙げた。

 派手な女装の「ドラァグクイーン」らが登場してレオナルド・ダビンチの名画「最後の晩餐」をパロディー化したとして極右政治家やキリスト教関連団体から批判もあったが、移民社会の多様性と団結の象徴として西アフリカ・マリ系の人気歌手アヤ・ナカムラさんら新しい世代が熱唱。芸術監督のトマ・ジョリさんもまだ40代で「若い彼らが自分たちの信念を貫いて、パリは芸術の街であることを印象付けてくれたのが一番うれしかった。好みはそれぞれだけれど、フランス一流の文学界、映画界、音楽界が結集し、多民族国家であるフランスを祝いつつ、100年ぶりの五輪は次世代のためのものだと主張している演出だった」と評価した。

 新型コロナウイルス禍で強行開催した3年前の東京五輪の開会式とも比較し「東京は宮崎駿、村上隆、坂本龍一、村上春樹といった世界が知るトップ中のトップがいるのに呼ばなかった。街に祝祭感がないのも残念だった。フランスは100年に一度の祭典でそれができた」とも語った。


フローラン・ダバディーさん(株式会社Sorriso提供)

 ▽ジダンが起爆剤に

 パリ五輪の活躍を振り返り、移民社会のフランスはこの20年でスポーツ大国に成長したと指摘する。スポーツが国民的な支持を得る起爆剤となったのは、サッカーのフランス代表が自国開催の1998年ワールドカップで初優勝した歓喜の瞬間だったと言う。移民系の選手らで構成されたチームで頂点に立ち「国民統合の象徴」と国中が熱狂した。その中でもアルジェリア系のジネディーヌ・ジダンは移民社会で希望の星となり「恵まれていない移民にとって、スポーツは一つの突破口となり、大きなドリームになった」と解説する。

 「パリ五輪の柔道代表を見ても、英雄リネールはカリブ海に浮かぶフランスの海外県グアドループ出身。移民が住むパリの郊外からもエリート選手が次々と輩出される。フランスはもともとアマチュアからプロへのピラミッドの育成システムが優秀だった上に、この20年でサッカーだけでなく、人気が著しく上がった柔道、バスケットボール、格闘技系のスポーツがすこぶる強くなっている。パリ五輪でもそれが証明された」と語った。


トルシエ監督(左)を多方面で支えたフローラン・ダバディーさん

 ▽上地結衣に感動、小田凱人の時代到来

 一方、パリは郊外の治安や衛生面など社会課題も指摘され、特に歴史がある地下鉄の設備は古く、バリアフリーに大きな課題を抱えている。地下鉄1号線が最初に開通したのはパリで第2回夏季五輪が開催された1900年までさかのぼる。

 バスと路面電車は車いすのスロープが搭載されるなど、バリアフリー化が着々進んでいるが、ダバディーさんは「昔のパリの地下鉄は空爆に対するシェルター的な役割もあり、大江戸線みたいに駅によって深くて石造り。エスカレーターやエレベーターを設置するのに予算措置の問題もあった。パラアスリートが地下鉄に乗って会場に行くことなんて、ほとんどできなかった」と指摘した。

 それでもパラリンピックでは特に大観衆が集まった車いすテニス会場のローランギャロスの盛況ぶりに「本当に感動した。あっぱれ」と表現した。ダバディーさんはテニス解説者としても活躍するだけに、女子シングルスとダブルスを制した上地結衣(三井住友銀行)の2冠達成に「本当に感動した。年賀状のやりとりも続けているけど、いつも丁寧に手書きでびっしり。人間としての魅力と負けず嫌いの一面、地道に努力を重ねる彼女の向上心には頭が下がる。赤土のサーフェスでオランダ勢を本当によく倒した」と称賛した。

 男子シングルスで初優勝した小田凱人(東海理化)の活躍には「国枝慎吾さんに負けないスペシャルな才能を持っている。彼の時代の始まりを告げる金メダルだと思う」と手放しでたたえた。


サッカーW杯で決勝トーナメント進出を決め、トルシエ監督(右から2人目)と共に喜ぶフローラン・ダバディーさん(監督の後方)=2002年6月14日、長居陸上競技場

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