街頭演説妨害、車で追尾。「荒れる選挙」に警戒続く 相次ぐ社会福祉法人乗っ取り。法改正も、資金流出
47NEWS / 2025年1月10日 9時0分
新しい年が始まった。2024年に大きくメディアに取り上げられたものや地域での関心が特に高かったもののいくつかは、今年も話題が続きそうだ。昨年起きたさまざまなニュースの「その後」を追った。今回振り返るのは(1)政治団体つばさの党による選挙妨害(2)三重の社会福祉法人乗っ取り。(共同通信=(1)警視庁記者クラブ(2)高橋良太)
▽法廷で「正当な政治活動」と主張
東京都知事選で、同一のポスターが並んだ掲示板=2024年6月、東京・秋葉原
他陣営の街頭演説に重ねるように拡声器で主張を訴え、選挙カーを追尾―。2024年4月の衆院東京15区補欠選挙で、政治団体「つばさの党」の運動は物議を醸した。
代表ら3人は、太鼓を打ち鳴らして演説を中断させたり、選挙カーの運行を妨げたりするなど他陣営への妨害行為を繰り返したとして、公選法違反容疑で逮捕された。同罪で公判が続いている。
7月の東京都知事選では掲示板に同一ポスターが多数張られる問題が起きるなど各地で「荒れる選挙」が相次ぐ中、国会では制度の在り方に関する議論が進む。
▽戦前の判例まで調べ上げた
「正当な政治活動がなぜ犯罪になるのか」。補選から半年以上が過ぎた11月、つばさの党代表(46)は初公判で声を張り上げ、約15分間にわたり自説を展開した。
代表らは「落選運動」と称して他陣営の妨害活動を繰り返したとされる。警視庁は選挙期間中は警告にとどめ、投開票日の約2週間後に関係先を家宅捜索。その4日後に逮捕に踏み切った。代表らは表現の自由を念頭に活動を「候補者の権利」と主張しており、捜査関係者は「戦前の判例まで調べ上げ、選挙の自由の妨害に当たると判断した」と話す。
都知事選では、掲示枠を売買する「掲示板ビジネス」のような行為が物議を醸した。11月の兵庫県知事選では、「別の候補者を応援するため」と明言した上での出馬もあった。「公選法はあいまいでグレーゾーンが多い。互いを尊重する不文律や常識が通用しなくなっている」。与党関係者はため息をつく。
▽近づく参院選。模倣に警戒感
法の間隙を縫う数々の選挙運動に、石破茂首相は今月の衆院代表質問で「これまで経験したことのない特異な状況が発生している」と述べ、選挙制度の在り方を議論するよう各党に呼びかけた。ただ、演説妨害などの厳罰化は、自由な活動を制約しかねないとして慎重論が根強い。
つばさの党は妨害の様子を動画で配信しており、広告収入を得ることが狙いの一つだったとみられる。2025年には参院選が予定されており、模倣する陣営が出る可能性も。捜査幹部は「選挙は民主主義の根幹。権利を逸脱した行為は厳正に対処していく」と語った。
× × ×
▽社会福祉法人の乗っ取り事件
社会福祉法人「かがやき福祉会」が運営していた福祉施設=2024年8月、三重県鈴鹿市
三重県鈴鹿市の社会福祉法人「かがやき福祉会」の運営権を違法に売買したとして、県警は2024年10月、元理事長の男ら4人を社会福祉法違反の贈収賄容疑で逮捕した。2016年の同法改正で監視機能の強化が図られたが、社会福祉法人を違法に乗っ取り、資金横領する事例が各地で発生。高齢者や障害者などを支援する公共性の高い団体が多く、運営破綻すると地域への影響が大きいため行政主導の防止策が求められる。
合併・買収(M&A)仲介サイトに掲載された約6千万円での法人売却情報がきっかけだった。
当時法人理事長だったネッツトヨタ神戸役員のA被告(58)=同法違反(収賄)の罪で起訴=に、B被告(53)=同法違反(贈賄)と業務上横領罪で起訴=が接触。2022年2月、指定人物に役員を変更するよう依頼し、見返りにA被告らが計3500万円を受け取ったとされる。
▽「家族も家も失った」と語る被告
B被告は大学の後輩で元警察官のC被告(44)=同=を理事長とするなど役員を知人で固め法人を私物化。捜査関係者によると、理事会などを開かずに介護報酬債権を売却し、2022年7月には法人資金500万円を私的流用したとみられる。役員は逮捕後の調べに「違法と知らなかった」と話したという。
B被告とC被告は、有罪が確定した静岡市の法人を巡る事件に続き、同福祉会事件の公判が津地裁で始まった。C被告は取材に「家族も家も失った」と後悔を口にし、公判では「事実を全て話したい」と誓った。
▽法改正も全国で事件続く
社会福祉法には、2016年の法改正で理事会の権限明確化や贈収賄に関する規定が盛り込まれた。役員の暴走抑止が狙いだった。
2021年に甲府市の法人の乗っ取りを巡る事件で初適用されたが、その後も福岡県糸田町、静岡市、東京都墨田区の法人で同様事件が続いた。理事会の機能不全や役員による資金流出が確認されたケースもあった。
社会福祉法人の運営に詳しい外岡潤(そとおか・じゅん)弁護士は「役員の法令順守意識の希薄さがある」と指摘、所管する厚生労働省は違法な例を周知するべきだと訴える。多くの法人は適切に運営し、私財を投じるケースもある。一部の不正を防止するため「行政の監視機能を強化する必要がある」と喚起する。
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