常に完璧を求められる「日本の先生」 教育大国・フィンランドに学ぶ“脱ブラック”な働き方のヒント
オールアバウト / 2025年1月10日 21時5分
日本で小学校教師を経験し、現在はフィンランドで教育コーディネーターをしている宮下さんに、「ブラック職業」と言われる日本の先生の働き方についてのご意見をお聞きしました。
宮下彩夏さんは、日本での小学校教諭の経験を経て、現在はフィンランドで「教育コーディネーター」として「日本×フィンランド×教育」をテーマに幅広く活動をしています。
日本とフィンランド、両国の教育を知るからこそ感じる「日本型教育の課題」をお聞きしました。
※今回のインタビューは、当時勤務していたフィンランドの高校の「教育旅行」の引率で日本に帰国されたタイミングで行いました。
日本の先生は「頑張りすぎている」
――今回の教育旅行では、日本文化の体験のほか、全国各地の学校にも行かれたそうですね。改めて日本の学校についてどのように感じましたか?宮下さん「訪問先の小学校のように、教育に真っすぐ向き合っている先生がたくさんいるところが日本の教育の素晴らしいところだと改めて思いました。こうした先生たちのサポートがあるからこそ、子どもたち一人ひとりがのびのびと生活できるのではないかと思います。
本当に先生たちは頑張っていらっしゃるなと思うと同時に、数年前の自分を思い出しました。あのときの私も、本当に頑張っていたなと懐かしく感じました(笑)。
その一方で、先生たちの働き方をうかがっていると、いまだに学校や地域、保護者が先生に求めすぎている、そして先生たち自身もそれに応えようと頑張りすぎている現状があると改めて感じました」
――先生たちは授業はもちろん、休み時間も給食の時間でさえも、子どもたちから目を離さずに見守ることが求められていますよね。
宮下さん「私が小学校の先生だったころも、常に120%を求められるのが当たり前でした。おっしゃるように、日々の授業はもちろん、学級経営、学校行事など、常にマルチタスクを抱えての業務です。でも、学校では教師みんなそれが当たり前で、学校や保護者からはもちろん、何より私自身が自分に『いつも全力で完璧でなければならない』と求めていたと思います。
しかし、120%を常にというのはとても無理ですよね。現在私が働いているフィンランドでは、先生たちがもう少し楽にというか、シンプルな考えの下に働いているように感じます。授業準備や学級経営はありますが、学校行事は日本ほど大々的には行いません。自分のクラスのことに集中して働けるというのは、すごく負担が軽くなるのかなと思います。そうすることで、先生も『一人の人間』であることが守られるのではないでしょうか」
プライベートすらも「先生」でなければならなかった
――確かに、日本の先生は「いつでも先生でいなければいけない」という強迫観念のようなものがあるようにも見えます。宮下さん「そうですね。私自身、日本で小学校の先生をしていたころは、学校内はもちろん、外でも先生であることを求められているような気がしていました。私はいつでもどこでも『宮下先生』であって、『宮下彩夏』の部分がどんどんなくなっているような気がしていたんです。
しかしフィンランドでは、個を大切にするという当たり前のことが先生にも適用されています。パートナーや家族と普通に街を歩くし、時間を作って旅行にも行きます。
日本の先生方の中には、地域の目を気にされて街を歩くのも気を遣ったり、学校行事のためにプライベートを犠牲にしたりしている人も多いのではないでしょうか。先生が『一人の人間』であるということも、日本でももっと尊重されていいのではないかと思いますね」
日本の先生には「自分たちは教育のプロ」と自信をもってほしい!
――働き方が依然として問題になってはいますが、日本の学校の教育は世界から称賛されていることも事実です。宮下さん「もちろんです。日本の教育のすばらしさを強く感じたのがまさに今回の教育旅行ですね。
勤務するフィンランドの高校の生徒を引率したのですが、『なかなか集合時間を守ることが難しい生徒もいる』ということに日本との大きな違いを感じました。
もちろん、慣れない日本での生活に戸惑った部分も多いと思うし、個人差はあります。しかし、集団で動くにはどんな配慮が必要で、自分の行動が周りにどんな影響を及ぼすのかということを想像するのは、日本人のほうが上手なのだろうなと思います。
フィンランドの現在の教育は、一人ひとりの自由を尊重することを大事にしています。そういった姿勢はもちろん大事ですが、一方で『自分のことに集中してればそれでいい』という雰囲気になってしまうこともあり、周りが見えなくなってしまう生徒もいます。ある意味、周りに迷惑をかけないことを一番大事にする日本の教育とは真逆ですよね」
――今後の日本の教育がどのようになってほしいか、宮下さんの考えを教えてください。
宮下さん「両極端の日本とフィンランドの教育を見てきたからこそ、両方のよいところをとりいれた形を目指せないのかな、と感じます。そして、日本の先生たちにはもっと『自分たちは教育のプロなんだ』と自信や誇りをもってもらいたいなと思います。
日本を離れたら『日本の嫌なところばかりが見えるんじゃないか』と思っていたのですが、意外とそんなことはなく、むしろ素晴らしいところや世界に誇れるところがたくさんあると気付きました。
だからこそ、『なぜ自分は教師を目指したのか』というところに立ち返り、自分の教育者としてのスタンスやマインドを大事にしてほしいし、私も忙しさに振り回されることはあっても、軸をぶらさずにいたいと思っています。きっと自身の思いに真摯に向き合うことが、先生たちにとってのウェルビーイングにもつながるのではないでしょうか」
宮下彩夏さん
東京学芸大学人間社会科学課程カウンセリング専攻を卒業後、横浜市公立小学校教諭として勤務。退職後は一般企業に勤務したりボランティア活動をしたりするなど多岐にわたって活躍。現在は、教育視察サポート・企画・運営や、ヘルシンキ日本語補習校の講師を務めるほか、「教育×フィンランド×日本」をテーマに幅広く活躍中。
この記事の執筆者:大塚 ようこ
子ども向け雑誌や教育専門誌の編集、ベビー用品メーカーでの広報を経てフリーランス編集・ライターに。子育てや教育のトレンド、夫婦問題、ジェンダーなどを中心に幅広いテーマで取材・執筆を行っている。(文:大塚 ようこ)
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