父親のDV、両親の離婚…11歳の少年が恐怖に震える衝撃作『ジュリアン』
ananweb / 2019年1月24日 19時0分
2019年は新たな時代の幕開けを迎えますが、そんなときだからこそもっと幅広い視野を持って社会のことにも関心を向けていきたいところ。そこで、ご紹介するのはフランスでロングランヒットとなった話題作『ジュリアン』です。今回はこちらの方々にお話を聞いてきました。それは……。
写真・角戸菜摘(グザヴィエ・ルグラン、トーマス・ジオリア)
■ グザヴィエ・ルグラン監督&トーマス・ジオリアくん!
【映画、ときどき私】 vol. 210
ルグラン監督は本作が初長編作となりますが、第 74 回ヴェネチア国際映画祭では最優秀監督賞にあたる銀獅子賞を受賞するなど、すでに高い評価をされている新鋭監督。
そして、トーマスくんは今回のジュリアン役に抜擢され、長編映画デビューを果たしたばかりの新星です。今後、フランス映画界において、ますます活躍が期待されるおふたりに、この作品の舞台裏などについて語ってもらいました。
■ DVについては徹底的にリサーチした
―主人公のジュリアンは、離婚した父と母の間で揺れ動く少年ですが、その背景には父親のDVの問題が色濃く描かれています。実際、フランスでは2日半に1人がDVの犠牲者となっているそうですが、観客の反応はいかがでしたか?
監督
今回、この長編を作るにあたって、被害者の会にたくさん参加したり、あらゆる調査をしました。そのなかでさまざまな反響をもらいましたが、取材をした女性から言われたのは、「実際に自分が経験した恐怖がそのまま描かれていて驚いた」ということ。
つまり、彼女の経験した状況や夫からされてきたこと、それに対して彼女が考えていたことのすべてが映画のなかで映し出されていたようです。
―では、映画のなかでDVというテーマを取り上げようと決めたきっかけを教えてください。
監督
まずは悲劇を書きたいと思って脚本を書き始めたんですが、そのあと家族と家について描きたいと思うようになりました。なかでも、「家」というのは、自分を守ってくれるものではあるものの、突如として危険なものにもなり得るんだというのを描きたかったんです。
特に、今回のように家庭内で起きる暴力というのは現代病のひとつだと思ったので、最初にも話したように、事前にたくさん調査をして、いろんな経験者や被害者の方々と会うことで内容を固めていくようにしました。
■ 意識したのはジュリアンを生きるように演じること
―トーマスくんにとっては、テーマも役もかなり難しかったと思いますが、実際に演じてみてどうでしたか?
トーマスくん
今回が初めての映画だったということもあり、撮影に入る前には演技のコーチから何か月間にもわたって演技指導を受けました。実際にシーンごとの練習もたくさんしましたが、ジュリアンは本当に難しい役どころ。それだけに、できるだけ役に没頭するように意識して、実際にジュリアンを生きるように演じたつもりです。
―劇中、まるでドキュメンタリーを見ているかのような生々しい描写もありましたが、ジュリアンという役を引きずってしまうことはありませんでしたか?
トーマスくん
人物の作り込みに関しては、事前にコーチや監督と一緒に相談しながら取り組んでいきました。僕はジュリアンになりきろうとしていたので、自分の私生活と線引きするというよりは、自分自身を役に投影させているかのような感覚でした。そういう意味では、役と自分をはっきりとわけていたということはなかったかもしれないですね。
でも、現場では撮影に携わるスタッフみなさんの協力もあり、環境は整っていたので、そのなかで役に没頭していくことができました。なので、本当に恐怖を感じるような役どころではありましたが、撮影が終わったら引きずることもなく、すっきりと私生活に戻ることができたと思います。
■ 演出するうえでは技術的にも細かくこだわった
―作品のなかでは、トーマスくんにプレッシャーを与えるような難しいシーンも多かったと思いますが、監督が演出でこだわっていた部分はどのあたりでしょうか?
監督
今回のリハーサルでは、演技的なことよりもどちらかというと技術的なことを意識しました。たとえば、ベッドの上にいるシーンでは、どの瞬間にどのくらい布団を持ち上げるかとか、そういった細かいことまで作り上げていったんです。
そうやって何度も練習をすることによって、本番で俳優たちは自然な形で演じることができました。事前に細かく決めていたことによって、長回しのなかでも俳優たちが好きなように演じることができたと思います。
―また、この作品では音の使い方も非常にこだわりを感じさせますが、どのような効果を狙っていたのでしょうか?
監督
日常にある音を強調することによって、まずは観客を引き込もうという狙いがありました。たとえば、車のなかで鳴るシートベルトの警報音や時計のチクタクする音ですね。あとは、若者が集まるパーティのシーンでは音楽が大きくて会話が聞こえないというのも、現実に即した状態での音響を考えました。
なぜなら、実際に音が人間にどれだけの恐怖を与えるのかということもこの映画の技術面においては、ひとつの大きな点となっているからです。
ある女性が言っていたのは、夫が家に帰ってきて鍵を開けるとき、その鍵の音だけで、夫が怒っていて叩かれることが予測できるという話でした。そんなふうに日常生活における音がどれだけ恐怖をもたらすものかということも表現したかったんです。
■ 特に難しさを感じたシーンとは?
―それでは、トーマスくんにとって一番難しかったのはどのシーンですか?
トーマスくん
難しかったシーンを挙げるとしたら、3つあります。まず1つ目は、車のなかのシーン。父親がものすごく怒っているという恐怖と戦っていたので、非常にエモーショナルな感情を出さなければいけなかったからです。
そして、2つ目は父親がヤケになり暴走してしまうシーン。これは、僕が個人的に大きな音が好きではなかったので、撮影前に「どうなっちゃうんだろう」とすごく不安になってしまったからなんです。
それから3つ目は、母親と共に父の暴走におびえ隠れるシーンですが、ここも俳優として感情を要求される難しいところだったと思います。とにかく役になりきって、感情を表現するということに集中するように心がけるようにしました。
■ 監督がいつも安心感を与えてくれた
―そういった数々の難しいシーンを撮っているなか、監督からはどのようなアドバイスがありましたか?
トーマスくん
監督はすべてのシーンにおいて助言をくれたので、何かうまくいかなかったり、問題にぶちあたったりしたときには、監督に相談に乗ってもらっていました。そうすると、「こうすればいいよ」とか、「このほうがよかったよ」と言ってもらえたので、自分の演技がダメなときでも監督が僕に安心感を与えてくれていたと思います。
―監督はご自身も俳優として活動されていますが、そのことが監督をするうえで活かされた部分があれば教えてください。
監督
俳優であるということが役に立っていることがあるとしたら、映画を撮るときに俳優の立場になって考えられるということですね。
つまり、監督として上からの演出ではなく、俳優がどういう演技をするのかということを尊重して、それを見守る形を取るように気を付けています。それは次回作を撮ったときにも同じで、俳優たちそれぞれをきちんと見せられるように心がけました。
■ インタビューを終えてみて……。
難しいテーマに一緒に立ち向かったからこそ、強い信頼関係で結ばれているルグラン監督とトーマスくん。俳優としても活躍されているだけあって、オーラのある監督も印象的でしたが、トーマスくんが撮影時よりもかなり背が伸びて大人っぽくなっていたのには驚きでした。ちなみに、「寿司KYOTO」のTシャツはたまたま気に入ってフランスで買ったのだとか(笑)。これから数々の作品に出演し、また監督と一緒に来日してくれるのを期待したいところです。
■ スリリングな展開に引きずり込まれる!
息もできないほどの緊迫感に包まれ、体をかけめぐるような衝撃に打ちのめされる本作。役者たちのリアルな熱演と監督の手腕が光る演出が味わえるサスペンスドラマは、ぜひスクリーンで味わってみて。
■ ストーリー
11歳のジュリアンは、両親が離婚したため、母のミリアムと姉と暮らすこととなる。しかし、離婚調停の取り決めによって、共同親権となり、ジュリアンは隔週で週末を父のアントワーヌと過ごさなければいけなくなるのだった。
執拗にミリアムの居所を突き止めようとする父から必死に母を守ろうと、うそをつき続けるジュリアンだったが、それによってアントワーヌの不満が爆発寸前となる。そして、ついに衝撃の展開が家族に襲いかかろうとしていた……。
■ 追い詰められる予告編はこちら!
■ 作品情報
『ジュリアン』
1月25日(金)よりシネマカリテ・ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
配給:アンプラグド
©2016 – KG Productions – France 3 Cinéma
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