少数民族差別、デモ、拷問…“台湾”を深く知る傑作アニメ

ananweb / 2019年11月23日 20時40分

少数民族差別、デモ、拷問…“台湾”を深く知る傑作アニメ

日本ではここ数年、空前の台湾ブーム。タピオカや雪花冰(かき氷)はお馴染みだし、誠品書店が日本に進出するなど経済交流も盛んだ。でも台湾の歴史や政治、教育やエスニシティ(少数民族のアイデンティティ)に関しては無関心かも? 本作『幸福路(こうふくろ)のチー』は、観る人が台湾をもっと深く知りたくなる可能性大の傑作アニメだ。


主人公は、アメリカで暮らす台湾人のチー。祖母の訃報を受けて帰国した彼女は、久しぶりに見る故郷の風景が記憶とは違うことに戸惑う。しかも選挙活動中の幼馴染みは彼女のことを忘れた様子。そんなに変わってしまったのかと自身を見つめ直すチーの脳裏に、台北郊外にある幸福路168号に越してきた日の記憶がよぎる。小型トラックの荷台に乗って舗装されていない道を進むチーは、川に落ちて金髪碧眼の王子さまに助けられる妄想をする。空想好きの少女はやがて、親友になった金髪のハーフ少女ベティやいたずらっ子シェン・エンと屋上に上って、アニメ『ガッチャマン』のように羽ばたきたいと望むのだった。

チーが回想するのは、彼女の人格形成に影響を及ぼした社会事情やアミ族である祖母との思い出。彼女の誕生日が4月5日で、中華民国(台湾)初代総統の蒋介石が死去した日というのも物語のポイントのひとつ。当時の台湾には戒厳令が敷かれていて、学校では台湾語使用が禁止され、少数民族差別も当たり前!? そんな暗い時代と、輝かしい未来を夢見る無邪気な子どもの対比が切ない。また「将来は医師に!」という両親の希望に背いたチーが大学で学生デモに夢中になったり、いとこの色覚障害などで白色テロで行われた拷問を匂わせたり。921大地震の悲劇も体験したチーの半生は、激動の台湾史と重なってとてもドラマティック。

そして「どこで間違ったんだろう」と過去を振り返るチーの現在の悩みがとても普遍的だ。移住したアメリカで白人青年トニーと結婚した彼女は、アイデンティティ喪失を恐れながら、「私は幸せなの?」と自省する。葬儀に集まった親族に「子供はまだ?」と尋ねられてうんざりする一方で、再会したベティの前向きさに勇気づけられもする。両親の想像以上の老いに気づき愕然とするチーに自身を重ねる観客も少なくはないだろう。ソン・シンイン監督が自身の人生を投影させたチーの物語は、どこにでもいる女性の平凡な人生といってもいい。ただ凡人であっても、その来し方を振り返ることで、“幸せ”を求める人間の本質や人生はリセット可能という事実が見えてくることもあるのだと実感する。

宮崎アニメや新海アニメを見慣れた人は、絵柄が素朴すぎると感じるかもしれない。が、物語が進むうちにその純朴さが逆に台湾らしく思えてくるはず。パステル調で描かれる街並みに見覚えのある看板や風景を探すこともでき、台湾を訪れたことがある人ならきっとにっこりするに違いない。チーの声を英語も流暢な人気女優グイ・ルンメイが演じ、主題歌は大物歌手ジョリン・ツァイが担当。新人監督のアニメ作品としては超異例なキャスティングだけど、二人とも脚本を読んだだけで参加を決意したそう。全ては観終わって知った製作裏話だけど、映画を観れば大物が魅了されたのも納得でしょう。

『幸福路(こうふくろ)のチー』 監督・脚本/ソン・シンイン 声/グイ・ルンメイ、チェン・ボージョン、リャオ・ホェイジェン、ジワス・ジゴウほか 主題歌/ジョリン・ツァイ 11月29日より新宿シネマカリテほか全国順次公開。©Happiness Road Productions Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.

※『anan』2019年11月27日号より。文・山縣みどり

(by anan編集部)

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