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iPhone 8/X非対応、iOS 17に見るアップル製品のこれから(本田雅一)

ASCII.jp / 2023年6月9日 7時30分

AppleCEO ティム・クック氏とApple Vision Pro

 アップルの開発者向け会議「WWDC23」が始まり、まったく新しいパーソナルコンピューティングの形としてApple Vision Proが発表された。

 2021年末に「将来に製品化する技術」としてソニーが紹介していた1インチ4K OLEDマイクロディスプレーを採用しただけではなく、ソフトウェアからハードウェア設計、そして専用チップにいたるまで、極めて高い完成度が印象的だった。

WWDC23のためにApple Parkを訪れた参加者

 Apple Vision Proについて現在公表されているのは、2024年初旬に「米国のApple Store直営店で発売」というちょっと先の話題にも関わらず、その完成度の高さとコンセプトに注目が集まっているが、多くの読者にとって重要なのは「自分たちのアップルデバイスがどうなっていくのか」だろう。

 手持ちのiPhone/iPad/Mac/Apple TV/HomePodなどが、OSの更新によってどのような新しい使い勝手を得られるのかは、もっとも身近な関心事だ。アップルは過去の製品についても手厚くサポートを続けてきたからだ。

 それぞれの新機能に関しては、その一部(WWDC時点では開発者向けに必要となる以上の新機能はほとんど公開されず、年末の新製品に合わせて追加情報があるのが通例だ)が、ウェブサイトで明らかになっている。

 そこで、基調講演やウェブで公開されている機能をあらためて振り返るのではなく、アップデート全体を見渡してのコラムとして書き進めていきたい。

iPhone 8/Xのサポート終了の背景と「アップルのAI」技術

 WWDCの基調講演でiOS 17、iPadOS 17、macOS Sonomaの発表で印象的だったのは、iPhone 8/8 PlusおよびiPhone X世代のサポートが落ちたこと。そして、これだけ生成AI技術が盛り上がっている中、「アップルがAIについて特に何も触れなかったこと」について話題にならなかったことが印象的だった。ただし、あまりネガティブな意味での印象ではない。また、この2つは実のところ微妙に関係しあっていることだと思うからだ。

 まず後者の方から話を進めよう。

 WWDCにおいてアップルは「AI」という言葉は使わなかったが、推論アルゴリズムを用いたさまざまな機能がiOS、iPadOS、macOSなどに取り込まれていることを、繰り返し説明していたことに気づいただろうか。

 AIという言葉は使っていないが、機械学習というキーワードでさまざまな機能を説明していた。新機能の多くには機械学習によって実現される、自然言語処理や文字、音声の認識技術、あるいはユーザーの使い方に合わせて先回りして素早く的確な操作ができるようにする技術(たとえば文字入力時の候補やスペルの自動修正など)が盛り込まれたと話していた。

 取り立てて「AIすごいぞ」とは言ってはいないが、これらは一般的なアルゴリズムやユーザーインターフェイスの工夫ではなく、推論アルゴリズムを実装した上で機械学習させて実現、あるいはユーザー操作の繰り返しを学習させるなどして実現しているものだ。

 その背景にある「Core ML」の先には、アップル製半導体チップに実装された推論プロセッサ(Neural Engine)がある。

 大手テック企業は「GAFAM」などとひとまとめに表現されることもあるが、その中でハードウェアの販売を主たる業務にしている企業は、アップルだけだ。近年、サービス事業の収益が増えているとはいえ、あくまでもハードウェアの価値を高め、より高い競争力をもたらすための開発をしている。

 AI技術という文脈においてグーグルとの違いは明白で、アップルが解決すべき問題はアップル製品の機能性、利便性を高めることにある。そのためにAI技術は使っている。と、このように考えれば、新しいOSたちが備える機能に、AI技術が応用されている部分が数多く見つからないだろうか。

 生成型AIは、アプリケーションソフトウェアやサービスを提供する企業にとっては、大きな意味を持つトレンドだが、現時点でアップルが力点を置く部分とは言えないと思う。

2017年09月に発表されたA11 Bionic

iPhone 8/X世代に共通する事情

 さて、このこととiOS 17のサポートからiPhone 8/8 PlusおよびiPhone Xが落ちたことは無関係ではない。

 この2つのモデルに採用されているSoCは、Apple A11 Bionicというチップだ。この世代のチップには、初めて推論処理を効率的に実施するニューラルネットワーク処理専用コアが組み込まれていた。

 ただし、この時点では技術的な制約もあってか、さほど規模は大きくない。演算能力は毎秒6000億回だ。主な目的は顔認証のFace IDを実現するためで、他にもアニ文字を自動で提案する機能などにも使われているが、汎用的なプロセッサとしては弱い。

 あくまでもiOSの機能をより使いやすく、手軽に使いこなせるようにするためと、顔認識のための処理回路だ(もちろんアプリからも利用できないわけではないが)。

 推論処理用の専用コア、Neural Engineが本格的に組み込まれるようになったのは翌年、iPhone XSなどに採用されたA12 Bionicからである。推論専用処理プロセッサは8コアに強化され、毎秒最大5兆回の演算能力にまで増強された。実に8倍以上の高速化だ。

 ここでおおむね結論が見えてきた方も多いと思う。

 この大幅なNeural Engine強化ののち、アップルは推論エンジンに手を入れているが、一気にバーンと強化したのはこの世代から。iOSなどで使われているさまざまな推論アルゴリズムを用いた機能は、この世代のNeural Engine性能をベースに作られていると考えていいだろう。

 例えばiPad Proに着目しても、12.9インチ版は第2世代はiPadOS 17のサポートから落ちて第3世代以降となった。搭載されているのはA12X Bionicだ。時同じくしてMacもすべてがアップル製SoCになり、Neural Engineを搭載した今年「機械学習を用いた機能の底上げをするために線引きをしたのでは?」というのが筆者の推測だ。

 それをいうならば、その後もNeural Engineの強化をしているではないかと思うだろう。確かにその通りだが、推論アルゴリズムを構成するモデルは同じ考え方で規模を拡張することもできる。

 つまりNeural Engineの性能によって、同じ機能でも得られる結果の質が異なるということはあり得るということだ。とはいえ、さすがにA11世代では無理ということではないだろうか。

 「Hey, Siri」が「Siri」となり、一度呼び出せば文脈を覚えたまま次々に指示を出せるようになるそうだが、そうした連続する会話をすることはA11では不可能だろう。あるいはその後の各世代で、Siriの振る舞いも異なるかもしれないし、留守電録音の文字起こし機能でも認識精度が違うなんてことはありそうだ。

2020年11月にM1を搭載したMacBook AirとMacBook Proが発表された

「ベースラインが揃った」翌年にも期待

 いやいや、Macに関しては「Neural Engineがない機種でもサポートされているじゃないか」というだろうが、コンピューティングパワーが大きく電力消費にも寛容なMacならば、ある程度はカバーできるはずだ。それに一部の機能はApple Siliconオンリーにもなっている。

 この数年で、iPhone、iPad、MacのOSは機能の統合、統一が進んできており、iOS 17/iPadOS 17/macOS Sonomaではその傾向がさらに強まっている。macOS Sonomaの発表時には「iOS 17/iPadOS 17で説明した新機能はMacでも使えるよ」と簡略化してアナウンスしたのは、OSの核となる部分の融合がかなり進んだことを意味している。

 その上で推論エンジンのベースラインが揃ってくれば、現在以上に自然言語処理系(音声認識、文字認識、発話など。ちなみに今回は音声認識モデルがアップグレードされたとアナウンスされた)の「具合」はより良くなる。

 推論エンジンの進化は、応答性が高まったり、あっという間に処理が終わるといった数値化しやすいパフォーマンスよりも「より使いやすく手放せない」「精度が高く安心して任せられる」といった面での違いに現れることが多くなる。

 「俺たちのiPhone 8/Xを切り捨てやがって!」という気持ちも理解できるが、ベースラインが揃ったことで、今年のOSはその使い心地(字面だけではわからない使い心地だ)が上がっていることに期待したいが、さらに来年、底上げされたNeural Engineの演算力の上で何をやってくれるのかが楽しみだ。その成果は、(一部を除けば)端末を買い替えなくとも味わうことができるだろう。

 

筆者紹介――本田雅一  ジャーナリスト、コラムニスト。ネット社会、スマホなどテック製品のトレンドを分析、コラムを執筆するネット/デジタルトレンド分析家。ネットやテックデバイスの普及を背景にした、現代のさまざまな社会問題やトレンドについて、テクノロジ、ビジネス、コンシューマなど多様な視点から森羅万象さまざまなジャンルを分析する。

 

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