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「医者は儲かる」は本当か

ASCII.jp / 2024年3月21日 7時0分

写真はイメージ Unsplash |  JC Gellidon

 『開業医の正体-患者、看護師、お金のすべて』(松永正訓 著、中公新書ラクレ)の著者は、19年間にわたり千葉大学病院の小児外科医を務めたのちに独立し、地域の開業医になったという人物。小児科医(ときには簡単な外科的処置も)としては17年の実績をお持ちだ。

 こうしたプロセスを経てきたことには理由がある。そのことについては前著『患者が知らない開業医の本音』(新潮新書)で克明に解説されているが、あるとき脳動脈瘤が判明して大学病院で働けなくなったため、残された道として開業医を選んだのである。

 「貯金およそ200万円、経営知識ゼロ」の状態で。

 医師が開業したいというときには、それでもやっていける仕組みがあり、そのことについても本書では詳しく解説されているのでご確認をおすすめしたい。きっと納得できるはずだし、そこに行き着くまでの著者の苦悩が綴られた部分も本書の読みどころのひとつだからだ。

 いずれにしても、患者の多さは(小児科に限れば)著者のクリニックがある千葉県千葉市若葉区で“おそらく2番目くらい”。これまでもっとも患者が多かった年は1万8470人の来院があり、落ち着いた現在は1万6000人程度だというのでたいしたもの。

 本書では実体験に基づき、意外と知られていない“開業医のリアルな姿”を明らかにしているのである。

年収も高いが税金も高い

 “リアルな姿”に関しては、なにより気になるのは収入だが、これについては「医師」「収入」「厚労省」と検索をかけてみればすぐに資料が出てくるという。厚労省が勤務医の給料と開業医の給料の収支差額を公表しているのだ。

 平成18年(2006年)とちょっと古い資料だが、(中略)これによると、病院勤務医の年収は、1479万円。  法人の開業医の年収は、2530万円。  個人開業医の年収(収支差額)は、2458万円。  収支差額というのは、借入金の返済やクリニックの建て替えや修繕のための準備金などを含んでいるものだという。  なお、全国の勤務医の平均年齢は43.4歳、開業医の平均年齢は59.4歳と報告されている。それはそうであろう。ベテランになってから開業するのだから。なお、2020年のデータを見たら、開業医の平均年齢は60.2歳とさらに上がっていた。なんと還暦が平均である。(135ページより)

 ちなみに大学病院の医師は、アルバイトしなければ生活が成り立たないらしい。しかし医者のアルバイトの時給は1万円くらいなので、アルバイトだけで食っているフリーランスの医師も増えているのだとか。1日8時間働けば8万円、月に20日働けば月収160万円なのだから納得できる話ではある。

 ただし毎日がアルバイトのフリーランスは勉強する機会が著しく減るため、医師としての成長は難しい。そういう意味でも、開業医という選択には意味があるのかもしれない。

 上述のように開業医としての著者の収入は安定しており、勤務医よりも断然高い。だが実際のところ、払っている税金はかなり多いそうである。

年収3900万円のうち1670万円が税金に

 たとえば、行列のできるクリニックの院長先生が年収3900万円を稼ぐとどうなるのだろう? 煩雑になるため「扶養控除」や「社会保険控除」などの所得控除は考えないで大雑把な計算をした場合、以下のようになるという。

 (3900万円×0.4)-279万6000円=1280万4000円の所得税がかかる。住民税は10%だから、390万円である。合計で1670万4000円が税金としてかかってくる。このほかに所得に応じて事業税というのがあり、数十万円収めることになる。当然、社会保険料も支払う。(139〜140ページより)

 3900万円の収入を得たとしても、手元に残るのは約2230万円。それでも十分に高額ではあるが、半分近くが税金で持っていかれてしまうのだから、「目の前をお金が素通りしていくようなもの」という印象を抱いたとしても無理はない。

 なお2020年は、新型コロナのパンデミックで患者数が大きく減ったそうだ。

 診療控えと感染防止策の徹底で感染症が激減したからだ。100年に一度の感染症爆発など予測がつくわけがない。このとき、ぼくの年収は前年の61%に落ち込んだ。この先、いったいどうなるかとさすがに不安になった。(141ページより)

 どうあれ、開業医は働き続けなくてはならないということだ。夏休みや正月休みを取るだけでも収入はガクンと減るわけで、「医者は儲かる」というステレオタイプなイメージがあてはまるほどラクな仕事ではないということなのだろう。

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  • 開業医の正体-患者、看護師、お金のすべて (中公新書ラクレ 809)松永 正訓中央公論新社

筆者紹介:印南敦史

作家、書評家。株式会社アンビエンス代表取締役。 1962年、東京都生まれ。 「ライフハッカー[日本版]」「ニューズウィーク日本版」「東洋経済オンライン」「サライ.jp」「マイナビニュース」などで書評欄を担当し、年間700冊以上の読書量を誇る。 著書に『遅読家のための読書術』(PHP文庫)、『いま自分に必要なビジネススキルが1テーマ3冊で身につく本』(日本実業出版社)、『書評の仕事』(ワニブックスPLUS新書)、『読書する家族のつくりかた 親子で本好きになる25のゲームメソッド』『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(以上、星海社新書)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『プロ書評家が教える 伝わる文章を書く技術』(KADOKAWA)、などのほか、音楽関連の書籍やエッセイなども多数。

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