【2台でGO!!】BMWモトラッド新旧フラットツインGSは、まさかの路線変更だった!?
バイクのニュース / 2024年4月4日 11時10分
BMW Motorradの新型「R 1300 GS」がデビューしたことを受けて(日本では2023年11月23日発売)、先代モデル「R 1250 GS」と同じ条件で試乗し、新旧の違いを実感しました。
■既存の路線の維持をヨシとしない
当記事の主旨は、同じメーカーの気になるバイク2台を同条件でじっくり試乗して、比較論を展開することです。今回の素材は大排気量アドベンチャーツアラー界の王者と呼ぶにふさわしい、BMW Motorradの新旧フラットツイン(水平対向2気筒エンジンのこと。「ボクサーツイン」とも言う)「GS」です。
BMW Motorrad新型「R 1300 GS」デビュー(日本では2023年11月23日発売)に合わせて、あらためて先代モデル「R 1250 GS」(2023年型)と同条件で試乗比較し、その違いを実感してみる
言うまでもなく、2019年から販売されている「R 1250 GS」と、2024年型としてデビューした「R 1300 GS」は同じ系譜に属するモデルですが……。
実際にこの2台を駆ってさまざまな場面を走った私(筆者:中村友彦)は、あまりの違いに驚き、旧型と新型、先代と後継、などという表現を使うことに微妙な疑問を抱きました。
誤解を恐れずに表現するなら、「R 1300 GS」の開発陣には、既存の路線の維持をヨシとせず、新たな価値を加えよう、という意思があったのだと思います。
■パワーと車重の変遷
エンジンと車体の構造がまったく異なる第1世代を含めるとややこしくなるので、1994年に登場した第2世代以降の話になりますが、近年のフラットツインGSは、パワーアップと電子制御の充実化を主軸に進化を遂げてきました。
独特の迫力を感じる「R 1250 GS」(右)とは異なり、「R 1300 GS」(左)のフロントマスクはコンパクトでシュッとした雰囲気。なお「R 1300 GS」のツーリング仕様は、フラットツインGSシリーズ初の電動調整式スクリーンを採用
最高出力の変遷は次の通りです。
「R 1100 GS」(1994年型):80ps
「R 1150 GS」(1999年型):85ps
「R 1200 GS」(2004年型):100ps
「R 1200 GS」(2010年型):110ps←OHCからDOHCへ
「R 1200 GS」(2013年型):125ps←空冷から空水冷へ
「R 1250 GS」(2019年型):136ps
「R 1300 GS」(2024年型):145ps
30年間で、じつに65psもの向上を実現しています。
ただし車重に関しては、増量→減量→増量→減量という変遷を辿ってきました。
1994年型:243kg
1999年型:262kg
2004年型:240kg
2010年型:234kg
2013年型:245kg
2019年型:249kg
2024年型:237kg
※いずれもスタンダードの数値で、上級仕様は+10~20kgが定番
この数字をどう感じるかは人それぞれですが、モデルチェンジを行なう際はプラス方向の進化が必須だった最高出力と電子制御とは異なり、このシリーズにとって軽量化はマストではなかったようです。
いずれにしても新型「R 1300 GS」は、シリーズ最強のパワーウェイトレシオを実現したわけですが、今回の試乗中に数字を意識する場面はほとんどありませんでした。その一方で私が興味を惹かれたのは、キャラクターの明らかな違いです。
「R 1250 GS」を含めた近年のフラットツインGSが、漢気(オトコギ)溢れる硬派な乗り味だったのに対して、新型は誰もが日常の足として気軽に使えそうな、フレンドリーさを獲得していたのです。
フラットツインGSシリーズに限った話ではないですが、BMWモトラッドが日本で販売する車両には、複数のグレードが存在します。今回試乗した2台は、「R 1250 GS」がスタイルラリーのプレミアムライン(305万6000円)で、「R 1300 GS」は日本の主力になると思われるツーリングのオプション719仕様(336万800円)です(※価格は消費税10%込み)。
■どちらにも、立つ瀬があるはず?
一般的な比較試乗の文章は、各車各様の魅力を記したうえで、どちらにも立つ瀬があるという展開が通例です。とはいえ、既存のフラットツインGSシリーズのオーナーが読んでいたら大変申し訳ないのですが、今回の比較試乗で私が「R 1250 GS」ならではの美点と感じたのは、威風堂々とした雰囲気と巨大なマシンを操っている充実感のみで、他の要素は「R 1300 GS」の方が優位でした。
外観からは判別しづらいものの、「R 1300 GS」(左)のパワーユニットはミッションの配置を見直すことで、前後長を大幅に短縮。そのおかげで、スイングアームの延長が可能となった
2台の差異を生み出す最大の要因は、状況に応じて前後の車高が自動で上下するライドハイトコントロールでしょう(停止時のシート高は820mmで、速度が50km/hを超えると約3秒で850mmに上昇し、25km/hを下回ると約1.5秒で820mmに下降。日本ではツーリングのみが標準装備)。
この機構を導入したおかげで、新型は混雑した市街地や、一寸先は闇の未舗装路で絶大な安心感が得られるのです。
それに加えて、マスの集中化や前後サスペンションの刷新などによって、峠道ではちょっと背が高いオンロードバイク的な感覚でスポーツライディングが楽しめること、前走車を自動で追従するアクティブクルーズコントロールや空力性能に磨きをかけた外装類の効果で、高速巡航がイージーになったことも新型の魅力です。
もっとも、世の中には「R 1300 GS」に対して「王者としての風格が足りない」、「世間に迎合して軟弱になった」、などと異論を唱える人がいるかもしれません。
ただし、今回試乗した2台のフラットツインGSで、あらゆる状況を安全かつ快適に走れるのはどちらかと言ったら、それはやっぱりフレンドリーで自分の手の内に収まるかのような感覚が得やすい、「R 1300 GS」だと私は思います。
■支持層の大幅な拡大
冒頭で述べたように、新旧2台を同条件で比較試乗した私は、既存の路線の維持をヨシとせず、新たな価値を加えようという、BMWモトラッドの意思を感じました。
「R 1250 GS」(右)のマフラーは、排気量なり……と言いたくなる大きさ。「R 1300 GS」(左)のマフラーは、リアショック下部に消音用の膨張室を設置することで、かなりのコンパクト化を達成
その言葉をもうちょっと詳しく説明するなら、「R 1250 GS」を含めた近年のフラットツインGSシリーズが、体格的に恵まれたライダーや、技術的に優れたライダーを主な対象としていた(と思える)のに対して、「R 1300 GS」なら小柄なライダーや、経験があまり豊富ではないライダー、近年になって体力の衰えを感じてきたベテランライダーなど、このモデルならではの運動性や快適性、悪路走破性がしっかり堪能できるのです。
言ってみれば、新型からは支持層の拡大という狙いが感じられて、改めて文字にすると、それはまあ当然のことのような気がします。
とはいえ、既存のフラットツインGSの最終形となった「R 1250 GS」が世界中で大人気を獲得していたことを踏まえると、「R 1300 GS」は「よ、よくぞそこまで……!!」と言いたくなるほどの路線変更を行なっていて、私はその事実に大いに心を動かされました。
ちなみに、体格が大柄でバイクの経験が豊富でも、近年になって露骨な体力の衰えを感じている私にとって、既存の「R 1250 GS」は購入対象として考えづらいモデルでした。でも「R 1300 GS」の試乗中は、普段の自分のフィールドでこのバイクが活躍する姿を何度も夢想していたのです。
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