急増するフェムケア品&サービス… どう選び、何に注意して使えばいい? 産婦人科医&フェムケア賢者が伝授
CREA WEB / 2024年3月8日 11時0分
名物をしみじみ味わって、のんびりと街歩きしたい台湾は、少し見ぬ間に懐かしさはそのままに、ヘルシーに進化していました。「CREA」2024年春号の「行かなくちゃ、台湾」特集。その一部を抜粋し、掲載します。
女性の健康課題の解決をサポートするフェムケア市場が活性化。新製品も多く登場しているけど、何に注意して選べばいい? 産婦人科専門医の髙橋怜奈さんと女性のウェルネス向上に取り組む企業「フェルマータ」COOの近藤佳奈さんに聞きました。
フェムケアアイテム・サービスとの正しい付き合い方って?
――日本において「フェムケア」の市場は右肩上がりの印象です。この理由をどうお考えでしょう?
近藤 世界的に「フェムケア」という言葉は昔からあったんですけど、日本では逆で、対抗馬的に出てきた「フェムテック」というワードが先に注目され、その概念に入らないものが「フェムケア」と言われはじめたのが、2020年頃ですね。
さらに、コロナ禍でフェムケアがより注目された印象があります。消費者が家にこもることで、自分の健康とじっくり向き合う姿勢になり、「大切だよね」と思いはじめたような。また、メーカーがアイテムを市場に広げやすくするために「フェムケア」という言葉が必要だったのかなと思います。
髙橋 確かに、コロナはひとつのきっかけだったかもしれません。新型コロナワクチンを打ってから、不正出血や生理不順になったという相談が増えましたし……。実際女性は、ちょっとしたストレスなどで生理不順になったりもするんですが、普段なら気にならないことを気にしはじめた時期でもあったと思います。
――髙橋先生、患者さんと接していて、フェムケアに関する認識が変わってきた印象はありますか?
髙橋 気になっているという人は多いですね。ある程度金銭面でも余裕が出てくる30代後半から40代の人は、デリケートゾーンのケアに関心があるようです。
ただ、多くの人が勘違いしているのが「デリケートゾーンはピカピカにしていなければいけない」と思っていること。「おりものが気になるから毎日腟内洗浄しています」という人がいますが、腟内に存在する善玉菌まで洗い流してしまい、逆に腟炎を長引かせてしまうことも。また、デリケートゾーン用のオイルを使用することで脂漏性湿疹を発症している人もいるので、使用後はふき取るなど、正しい使用法を守ってほしいです。
自分の体を知ることが第一歩
――デリケートゾーンケアなどは何歳くらいから意識をするといいのでしょう?
髙橋 デリケートゾーンのケアというよりは、物心がつく3、4歳くらいからまずプライベートゾーンの大切さ、そしてお手入れを教える必要があると私は考えています。性的なこととは別として、子供が触ることは人間の本能としてあるんですが、「けがらわしい部分ではない」と認識させるのがいいと思います。
近藤 今のお話で思い出したんですが、フィンランド出身のメンバーが小学生の時に、先生が「今日おうちに帰ったら、自分の体を知るために手鏡でおまたをのぞいてみてね」と話していた、と聞いて驚いたことがあります。日本ではなかなかないかな、と。
髙橋 学校でそう教えてくれるのはいいですね! 子供に伝えることに抵抗がある親もいるんですよ。産婦人科の診療においても、自分のデリケートゾーンに触るのがはばかられるし、構造を見たことがないという人がいます。
なので、「ここは赤ちゃんが出るところで、簡単に破れたりはしないんだよ」と子供に伝えること、そしてきちんと見て、触ってみることは大事だと思うんです。性と結びつけるのではなく、自分の体を知るということですから。そういう意味では、フェムケアへの関心が高まっているのはよいことだと思います。
アイテムの見極めが重要
――フェムケアのアイテムを選ぶにあたり、正しい知識を得るにはどうしたらいいでしょうか?
髙橋 人に聞くなら、同じコミュニティに所属していない複数の人に聞くのがいいと思います。専門家ならいいというわけでもなく、産婦人科医なら全員「月経カップ」について知っているわけではないんですよね。
近藤 消費者にできることは、本当に髙橋先生のお話の通りだと思います。実は日本において、フェムケアはこれまで流通が少なかった分野なので、売り手側も国側もルールが未整備なところも多いんです。無理やり既存のルールに押し込んでいるので、雑貨の潤滑ジェルは腟内に使えるのに、成分が明示されているデリケートゾーンの保湿剤といった化粧品は腟内に使えなかったり、矛盾が起きていることもあるんです。
髙橋 本当にそうですよね。法をすり抜けているようなアイテムも少なくないです。
近藤 法が未整備であるがために、消費者側に健康被害が起こってしまうことも……。
髙橋 これは実際にあった事例なのですが、女性ホルモンに働きかけるという成分配合のオイルを海外から輸入して使った人が、不正出血でクリニックに来たことがあるんです。どうしてそれを使ったのかと聞くと「友達がいいって言ってた」とのことで。国民生活センターから、バストアップのサプリメントについて注意喚起が出ていた例を思い出しました。
現状では、広告から商品情報を得ることも多いと思うんですが、実は日本の薬機法でアウトというアイテムはたくさんあります。だから「これで全部解決」とかいう売り文句のアイテムには注意が必要です。ブームに便乗している商品も少なくありませんから、きちんとした成分のものなのかを見極めて選ぶことが大切だと思います。
アイテム選びは冷静な判断で
近藤 ところで最近、オンライン診療でのサービスが増えてきていますが、メリットとデメリットをどう思われますか?
髙橋 例えばピル処方に関しては、アプリの誕生でとても敷居が下がりましたよね。東京みたいにたくさん婦人科があるわけではない地方の人は、通院のために車で長距離移動する必要がないなどの利点があります。一方、デメリットとして血栓症のリスクを見逃すことや、実は合っていないのに同じピルを飲み続けなければいけない可能性などがあります。対面診療を受け、リアルで使ってから「同じものが欲しい」という場合はいいとは思うんですが。本当に一長一短です。最終的に大切なのは「自分の体は自分で守る」意識を持つことですね。
近藤 アイテムを選ぶ際にもその意識は大切です。例えば月経カップは、日本では一般医療機器で届出が必要なものですが、海外の通販サイトで500円で売っているものは、やはり危ないかなと。
髙橋 潤滑ジェルも同様で、大手ドラッグストアの厳しい基準を満たしたものは安心だと思います。
近藤 薬剤師さんがいる調剤薬局で相談するのもいいですよね。
髙橋 あと吸水ショーツの場合、最大量の吸水ができるというのは企業努力だとは思うんですが、出血が多い人の場合は、婦人科に行ってほしいですね。
近藤 自分の経血量を知らず、なんとなくやり過ごしている人は少なくないと思います。
髙橋 医師としては、今後生理用品などにも婦人科受診への啓蒙の一言が入るといいなと思います。
――これからさまざまな体制が整備されていくのが理想ですね。
次に来るアイテムは? フェムテックの最新動向
「科学技術の進化と潜在ニーズの可視化により、さまざまなバイオメトリック(生体)データが取得できるようになり、それらをベースにしたプロダクトやサービスが増えてきています。経血やおりものなど、これまで捨てられてきたものからのデータ取得も注目の的になっていますね。
例えば、早産のリスクを検知できるパッドや、経血を自宅で採取してラボに送ることで健康状態を把握できるサービスなどです。フェムケアの先進国であり、スタートアップ企業が多いアメリカやイギリスなどの欧米圏をはじめ、世界中でユニークな取り組みが広がっています」(近藤さん)
女性の心と体がストレスフリーになる時代はそこまで来ているのかもしれません。
●お話を聞いたのは……
髙橋怜奈(たかはし・れな)先生
産婦人科専門医
医学博士・がん治療認定医・性教育認定講師。YouTubeやInstagram、TikTokなどで医療情報を発信。
YouTube/産婦人科医YouTuber
高橋怜奈Instagram/@renatkhsh
近藤佳奈(こんどう・かな)さん
フェルマータCOO
新規事業立ち上げや動画配信サービスを経験後、2019年、日本・アジアでのフェムテック市場創出を目指すフェルマータに参画。事業戦略、マーケティングを統括している。
https://hellofermata.com/
※表紙と巻頭グラビアに登場したNICHOLASのスペシャルインタビュー、台湾で必ず食べたい豆花や魯肉飯の名店、メイドイン台湾の美しい日用品などが盛りだくさんの「行かなくちゃ、台湾」特集は「CREA」2024年春号でお読みいただけます。
文=増本紀子(alto)
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