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シャンシャンの狂犬病ワクチン接種に 父親リーリーの精液保存、妊娠&出産 獣医師が担うパンダの未来

CREA WEB / 2024年3月17日 11時0分


中国ジャイアントパンダ保護研究センター臥龍神樹坪基地で暮らすパンダ(2023年10月13日、筆者撮影)

 上野動物園が2023年10月29日に開催した学生向けセミナー「飼育係だけ!? 動物園でパンダと働くシゴト案内」は、パンダに関わるさまざまな仕事を伝え、視野を広げてもらおうと企画されました。セミナーの様子を中心に、上野動物園のパンダにまつわる仕事を4回にわたり紹介します。


春は年に数日間しかないパンダの繁殖期

 上野動物園には6人の獣医師がいて、「公益財団法人東京動物園協会 恩賜上野動物園 飼育展示課 動物病院係」に所属しています。ジャイアントパンダを担当する獣医師にとって、かなめの季節は春。一般的にパンダの繁殖期は春で、春の数日間しかオスとメスが同居して自然交配(交尾)し妊娠できる期間がないためです。

 獣医師は、パンダの交配に適した時期を見極めることがとても大切。そのために用いるのが、発情周期によって膣の上皮細胞を染め分ける「膣スメア検査」です。赤・青・黄色に染まった細胞の数が、交配できる日の指標になります。

「オスとメスを同居させられるわずか数日間の見極めを失敗すると、繁殖は来年のこの時期まで待たなければならないだけでなく、オスとメスが闘争して大ケガをする恐れさえあるので、とっても大事なスリル満点の検査です」。上野動物園でパンダを担当する中国出身の獣医師はこう語ります。


膣スメア検査。この図で赤が青を超えた「ファースト・クロミック・シフト」が発情ピーク(交配適日)の8日前、黄が赤を超えた「セカンド・クロミック・シフト」が交配適日の2日前を示すのが一般的だが、シンシンは「セカンド・クロミック・シフト」が交配適日とほぼ同日になる傾向がある。(筆者撮影。写真のスライドの内容は上野動物園が作成。以下同)

 上野動物園にいるオスのリーリー(力力)とメスのシンシン(真真)は自然交配で繁殖していますが、オスの精液を用いて人工授精する方法もあります。上野動物園では2015年に、中国の専門家の指導のもとで、リーリーに麻酔をかけて精液を採取しました。「中国スタッフに事前に確認した結果、パンダ舎で麻酔し自動車に乗せて動物病院に運ぶこととなった。繁殖期はすでに過ぎていたものの精液量、総精子数、活力、生存率、奇形率いずれも良好で、多数の凍結精液を作製することができた」と『つなぐ―上野動物園ジャイアントパンダ飼育の50年』(2023年3月発行)に上野動物園の職員がつづっています。リーリーの精液は「現在、動物病院の液体窒素タンクの中にあり、使う機会がなければ永久保存されます」(獣医師)


リーリーの精液を採取。

赤ちゃんパンダを育てるのは手術と同じくらいの緊張感

 自然交配や人工授精が成功したら「妊娠しているか」「出産はいつか」を見極めることが重要です。受精卵が子宮内膜に着床すると妊娠しますが、パンダは着床が遅れる動物。妊娠時期の推測は容易ではありません。しかも赤ちゃんは大人の約1000分の1、わずか100~200gほどの体重で生まれるため、母親の外見からは妊娠を判断できません。そこで血液検査などをして、妊娠の成立と出産時期を推測しています。

 人工保育も準備します。パンダは問題なく子どもを育てあげることが比較的難しい動物とされ、人の手で母親のパンダから搾った母乳を赤ちゃんパンダに飲ませることもあります。


右上の写真は、シリンジを使って赤ちゃんパンダに母乳を飲ませている様子。誤嚥しないように、ゆっくり1摘ずつ飲ませる。

 赤ちゃんが生まれてから這って移動できるようになるまでの約4カ月間、獣医師と飼育係と補助の職員は交代で24時間、子育てに奮闘します。「鳴いてじたばた動き回る小さな赤ちゃんに対して行う全ての行為は、私たちにとって普段の手術と同じくらい緊張感マックスで、経験した後は、思いのほか筋肉痛になっています」(獣医師)

狂犬病ワクチンを接種

 パンダの健康診断は、季節に関係なく、随時実施しています。その一つは糞の検査。野生のパンダの回虫感染率はほぼ100%との報告があるため、糞を検査して感染をチェックしています。検査のほか、回虫用の駆虫薬もエサに埋めるなどしてパンダに与えています。投薬という面では、竹にダニが混ざることがまれにあるため、ダニ予防の薬をパンダに塗ることもあります。


採血。

 また、中国では犬ジステンパーウイルス感染症や狂犬病の発生が比較的多く、万が一、野良犬が入り込むなどしたらパンダも感染する恐れがあるため、パンダに予防接種をする傾向にあります。上野動物園で飼育するパンダには予防接種をしていませんが、2023年2月21日に中国へ渡ったメスのシャンシャン(香香)には「中国へ帰るとなると危険性があるので、帰る前に狂犬病ワクチンを打っています」(獣医師)とのこと。

 ジステンパーウイルスなどにもちゃんと抗体価があるか、もし感染しても重症化しないか確認してからシャンシャンを中国へ送り出したそうです。


中国で暮らすシャンシャン。(2023年10月12日)


中川 美帆 (なかがわ みほ)

パンダジャーナリスト。早稲田大学教育学部卒。毎日新聞出版「週刊エコノミスト」などの記者を経て、ジャイアントパンダに関わる各分野の専門家に取材している。訪れたパンダの飼育地は、日本(4カ所)、中国本土(11カ所)、香港、マカオ、台湾、韓国、インドネシア、シンガポール、マレーシア、タイ、カナダ(2カ所)、アメリカ(4カ所)、メキシコ、ベルギー、スペイン、オーストリア、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、フィンランド、デンマーク、ロシア。近著に『パンダワールド We love PANDA』(大和書房)がある。
@nakagawamihoo


パンダワールド We love PANDA

定価 1,650円(税込)
大和書房

文・撮影=中川美帆

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