【50周年】「アルフィー界隈は時間軸がアメージングゾーン化」THE ALFEEをデビュー年から辿る!
CREA WEB / 2024年3月26日 11時0分
●「風曜日、君をつれて」が名曲だと今さら知る
あれは確か昨年の秋の夜長。もし隕石が地球に落ち、世界が終わることになったら、最後、誰の音楽を聴きたいか。そう想像したとき、無意識にひょっこり、
「アルフィーかな……」
と呟いてしまい、自分で「ああアルフィー!?」とビックリした、という事件があった。
大好きなアーティストは他にもたくさんいるのに、潜在意識が敢えてアルフィーをチョイスしてきた不思議。その戸惑いを記事にしてから、早くも5カ月が経った。
冬の間、80年代よく聴いた彼らのヒット曲を堀り返した。確かに、名曲が多い。特に「風曜日、君をつれて」は、こんなにいい曲だったかとびっくりしている。まさに今この瞬間もBGMとして流しつつ、春の風のやさしさを感じている。
最新アルバム「天地創造」も聴いた。素晴らしい。「組曲: 時の方舟」は聴きながら、自分がどこにいるのか分からなくなった。恐ろしいほどのエデン・フレイバーである。
腰を据えて追いかけてみるか――。そう思う私の背中をさらに押したのは、アル中のファンの方のこの書き込みである。
「私はメリーアンからの新参者です」
しっ……!? 新参者の定義がすごいことになっている。「メリーアン」リリースは1983年、ガッツリ40年ではないか。2、30年のファン歴すら「まだ」をつけてしまうほど、アル中の方々の長期中毒が深刻化していることは知っていたが、こりゃ想像以上だと思った。アルフィー界隈はアメージングゾーンと化している! 人生100年時代と言われる昨今だが、ここは150年の換算だ。
興味深い……(福山雅治ばりにメガネを上げる)。デビューから50年間、一回も活動休止せず、ファンたちと新たな時間軸を作っている彼らの軌跡(&奇跡)を1曲たりとも聴き逃してはならない気がしてきたぞ。私も立派なアル中になりたい!
希望の鐘が鳴る。いざ「アルフィーのアルバム全部聴いて時空を超える計画」始動――。
どうせなら少しでも誰かと感動を共有したい、と、なんとか前後編、2回の記事枠をいただいた。さあ前編、スターシップに乗ってライドオンウィズミーッ、まずはデビュー年の1974年に発売された「青春の記憶」!
●なぜ売れなかったのかさっぱりわからないファーストアルバム
ということで、昭和57年(1982年)発売、アルフィー著「オーバー・ドライブ」(八曜社)と高見沢さんが髙見澤俊彦名義で70年代を書いた小説「音叉」、そして1974年から1975年の楽曲が入ったアルバム「青春の記憶+2」を取り寄せる。アーマゾーン!
初っ端から、彼らがアイドルとしてデビューしたという情報に驚く。「オーバー・ドライブ」の坂崎さんの記述によると、「芸能界とフォークの世界の宙ぶらりんのところでアイドル風にやっていた」というではないか。
ど、どういう状態なのだろうか。さっそくこの耳で確認しよう。時折口ずさんでしまうかもしれないがお許しいただきたい。
「青春の記憶+2」、プレイボタン・オン!
せっ、センチメンタルキュート! エッ、これ、ちょ、いや、エッ(戸惑う)。名盤の香りが漂ってますけど! 1曲目の「青春の記憶」から繊細でジューシー。間奏で鳴る木琴がまた(泣)。ポプコン大好きな私にとっては超ド真ん中のサウンドである。ちいさな愛っでー♪
しかも作詞作曲を見ると、松本隆&筒美京平の黄金コンビ。松本隆さんは作詞家としての活動に専念するようになってまだ間もないときだったはず。アルフィーも松本隆さんも、今なお第一線ってスゴイな!
聴き進めよう。「真夏の夢」、スカポコ入るパーカッションが下駄の音に聴こえて、70年代独特のバンカラベルボトムが妄想できて胸キュン! 君ッと過ごしッたー……♪ デビューシングル「夏しぐれ」も叙情的でいい曲ではないか。リードボーカルをとっていた高見沢さんは「絶対売れる」と周りに期待される重圧により、ストレスで喉が腫れたという。そんなエピソードを知るとより切なく聞こえてくる。
お気に入りは耳にコソコソッとくすぐったいウィスパーボイスで始まる「心の扉」だ。ていねいに声を置くような歌い方の静かさ、「恋人達のペイヴメント」を思い出してしまった。「水入らずの午後」「一年目の春」のメランコリーフレイバーも大好物だ。
最後から2曲目で「府中捕物控」という突然の変化球がくるが、これはこれでいい曲である。さんさん三億えーん♪
最後の曲「明日からよその人」(タイトルも秀逸)を聴き終わると同時に私は茶をすすり、窓ガラスの向うの空を見つめた。
素晴らしい――。ファンの方にとっては超今さら案件だろうが、すごいものを聴いてしまった感が。売り上げ的には今一つだったというが、なぜ売れなったのかさっぱりわからない。
しかも興味深いのは、大ブレイク曲「メリーアン」とスタイルが違いすぎる。ここからどういったプロセスを踏んでウォンチュッステッフォーミーになるのか。謎は深まるばかりだ。
●バンド名の衝撃
バンド名についても衝撃的な事実を知った。なになに、坂崎さんが高校時代に入っていたバンドの名前が「へそ下三寸」……!
私は唸った。坂崎さんがつけたバンド名ではないとしても、「音楽以外に頓着がないため、周りが『本当にそれで大丈夫か』と心配になるような変なバンド名を勢いで付けがち」という音楽小僧あるあるにビシリと当てはまるではないか。スターダスト☆レビューも、デビュー前のバンド名は「アレレのレ」だったそうだし。
しかもこれだけでは終わらない。なになに、アルフィーの前身となったバンド名「コンフィデンス」は櫻井さんがCMで見たデオドラントスプレーが由来? デビュー直前までバンド名は「シド」で一時期決定していた? 結局、メンバーも知らないうちに「ALFIE(アルフィー)」になっていた……だと? 表記が今と違うしどういうこと!?
二転三転にオロオロ。“ある日”アルフィーになっていたとは、ダジャレ的にもオチが見事すぎてビックリである。
ここからさらにアルフィーの表記が「ALFEE」→「THE ALFEE」に変わるのだが、情報も心も追い付かないので、悔しいが、バンド名問題の続きは次回に持ち越しである。
●「音叉」とのリンクがエモい!
このアルフィーのデビュー前のエピソードは、髙見澤俊彦さんの小説「音叉」と心地よくリンクする。「音叉」は若きバンドマンたちの青春が描かれているが、そのバンドのデビュー前の名も「グッド・スメル」という、臭い消し商品に由来する名前なのである。桜井さんの「コンフィデンス」のエピソードだ! つながって興奮した。
「音叉」には、70年代の音楽、安保で揺れた風景や夢や挫折がギュギュッと詰まっている。伝説のバンド「はっぴいえんど」も主人公たちの会話のなかに登場するのだが、アルフィーのデビュー曲をそのメンバーの一人、松本隆さんが彩っていることを考えると、なんともエモーショナル!
小説には、途中脱退する4人目のメンバー、やさしいムードメーカーの啓太が出てくる。もしかしたら、アルフィーの4人時代の懐かしい出来事も反映されているのかもしれない――勝手な想像ながら、心がじんわりした。
●アルフィーを追うと1970年代に興味が湧く
アルフィーのデビューを追っていると、芋づる式で、1974年にも興味が出てくるから不思議だ。アルフィーデビュー(8月)の3か月前には豊洲にセブンイレブン1号店が出店。デビューから2週間後には伝説のアニメ「グレートマジンガー」の放送が開始され、2か月後には「がんばれ!!ロボコン」が開始。
百恵ちゃんやジュリー、森進一、殿さまキングス、井上陽水などなど、アイドルもフォークも演歌も、ギラギラに光り輝き、ヒットチャートでせめぎ合っていた時代。アルフィーはそのむせかえるようなエンタメの波にもまれながらデビューし、七転八倒、切磋琢磨し、バブルも世紀末も平成も乗り越えて、今なお少年のようだ。
奇跡的なジュブナイル。彼らの音楽愛と好奇心の底が見つからない! 謎がどんどん深まり、まだデビューアルバム1枚目なのにこの状態。後編まとまるのだろうか。スターシップがエンストを起こしそうである。
アルフィーの50年を追う旅は、涙のしずくが星になるほど長い旅になりそうだ――。
さて、今回の最後は、シンプルな、あるアルフィー・ミステリーについて。3人が、あんなにずっと仲が良くいられるのはどうしてだろうか。
「オーバー・ドライブ」の、高見沢さんのこんな言葉に、ほんの、ほんの少しだが、ヒントが見えた気がした。
「ぼくが坂崎と桜井をはじめ、コンフィデンスのメンバーとあんなにあっという間に仲良くなれたのは、すごく健康的に見えたからなんですよ」
「音楽どうのこうのという以上に、当時は友達としてずっと付き合っていきたいという思いの方が強かったって気がしますね」
ああ、最高の出会いだったのだな。
健康的って、すごくいいな。
田中 稲(たなか いね)
大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。個人では昭和歌謡・ドラマ、都市伝説、世代研究、紅白歌合戦を中心に執筆する日々。著書に『昭和歌謡出る単1008語』(誠文堂新光社)など。
●オフィステイクオー http://www.take-o.net/
文=田中 稲
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