「今年結婚すると命が危ない」北朝鮮の若者たちが挙式を延期
デイリーNKジャパン / 2024年3月20日 11時12分
「丙午(ひのえうま)の年に生まれた女の子は気性が荒い」
日本には江戸時代からこのような迷信がある。前回の1966年にはその影響で、出生率が前年比で25%も減少した。次回の丙午は2026年だが、少子化が進んだ今、あまり影響はないだろうと見られている。
韓国にも同じような迷信があるが、こちらは庚午(かのえうま)だ。前回の1990年は、男児を望む傾向が依然強かったところに、医療技術の発展が重なり、女児100人に対して男児116.5人が生まれるという、極端な状況となった。
出産前の鑑別で女児であることがわかれば妊娠中絶を受けるのが当たり前の時代の出来事だった。また、旧暦の影響も今以上に強かった時代で、翌年の旧正月の前日の2月14日までそのような状況が続いた。
なお、次回の庚午は2050年だ。日本以上に少子化の進み方が速い韓国のこと、もはや同様の問題は起きないだろう。
北朝鮮では今年が凶年に当たり、結婚式を取り消したり延期したりする人が続出している。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
清津(チョンジン)では、旧暦の新年となった先月から、このような現象が出始めた。「今年結婚すると家庭円満とならない」という理由で、結婚式を来年に遅らせているのだ。これは中国発の迷信の影響を受けたものだ。
今年は立春(2月4日)が旧正月(2月10日)より早く訪れる「朔旦立春」だが、中国では「寡婦年」と呼ばれる。新暦(太陽暦)は19年であるのに対して、旧暦(太陰暦)は19年と7ヶ月の閏月からなる。19年のうち、立春が2回来る「双春年」が7年ある一方で、立春がない「無春年」も7年ある。最近では2019年、2021年、2024年、2027年が該当する。
陽(男性)がないので、陰(女性)が孤立する、つまり寡婦(未亡人)になってしまう。それで無春年の結婚はよくないとされている。中国政府は何ら科学的根拠はないとのコメントを発表しているが、それほど信じてしまう人が多いということだろう。
だが、この話が北朝鮮に在住する華僑を通じて、北朝鮮に広まってしまった。それも「こんな年に結婚すると、家庭円満とならず、夫婦喧嘩が絶えず、不運に付きまとわれて最終的には離婚する」という尾ひれまで付いてしまった。
そこに加えて「辰は目が見えないが強い生き物だから、辰年生まれが辰年に結婚すると命が危ぶまれるほど悪運となる」との話までくっついてしまった。それを真に受けた男女や、その両親が式を延期しているという。
(参考記事:育児に困る母親を放置する金正恩「産めよ増やせよ、知らんけど」)
だが、それを打ち消すような話も流れている。
「韓国では今年結婚するのはよくないという話はなく、若い男女は結婚している」
これは、韓国とのやり取りがある送金ブローカーを通じて広まった話だという。
行き来は活発でも民族が異なる中国より、行き来はできなくとも同じ民族である韓国の話を信じたくなるもので、一度延期した式を、改めて日を決めて今年中に挙げることを決めたという人も出ている。
北朝鮮政府は、このような話から占い、宗教までひっくるめて、すべて迷信だと規定し、取り締まりを行っている。しかし、宗教のように明確な組織があるわけでもなく、占い師のように特定の人物や場所が媒介しているわけでもない、この手の噂を取り締まるのは至難の業だろう。また、禁じられているからこそ神秘性が高まるという側面もある。
かくして、北朝鮮の人々は、ああでもないこうでもないと、迷信に引っ張られ続けるのだ。なお、日本で朔旦立春は吉年とされているのだから、この手の話のいい加減さがわかる。
少子化対策に悩む金正恩総書記にとっては、頭の痛い問題だろう。
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