自閉症の新たな治療標的として未成熟な脈絡叢を同定~メトホルミンによる自閉症モデルマウスの治療に成功
Digital PR Platform / 2025年1月8日 14時5分
【ポイント】
■ 自閉症は脳の発達との関連で研究されてきたが、脳より先に成熟する脈絡叢との関連は不明であった
■ 自閉症モデルマウスは多繊毛や密着結合に関与する遺伝子の発現低下など未成熟な脈絡叢の特徴を示す
■ 生後早期(臨界期前)のメトホルミン投与により、自閉症モデルマウスの脈絡叢成熟と社会性行動が回復する
■ 自閉症患者iPS細胞由来の脈絡叢のミニ臓器(オルガノイド)は未成熟を示す
■「未成熟な脈絡叢」を標的とした自閉症の新規治療法の確立へ道を拓くことが期待される
【 概 要 】
自閉症などの発達障害を含む精神疾患の研究は、社会的な要請もあり重要な研究課題となっています。従来から神経細胞やグリア細胞の異常など脳内の研究は数多く行われてきました。しかし、脈絡叢(脳より先に成熟して脳の発生に重要な栄養やホルモンを含む脳脊髄液を産生する組織)との関連は不明でした。
この度、東京薬科大学生命科学部の田邉基大学院生(研究当時)、同・福田敏史講師のグループは、発達障害の発症と関連するCAMDI遺伝子を全身の細胞で欠損したマウスの脳において遺伝子発現の変化を解析しました。その結果、多繊毛形成や甲状腺ホルモンとレチノイン酸の運搬に必要な遺伝子に加えて、脳脊髄液関門や臨界期を制御する遺伝子などの発現が減少していたことから、それらの遺伝子を発現する組織である脈絡叢が未成熟であることを見出しました。脈絡叢上皮細胞のみでCAMDI遺伝子を欠損したマウスを作製したところ、未成熟な脈絡叢に加えて社会性行動の低下を含む自閉症様の行動が認められました。また、胎生期に薬剤を投与することで作製できる2種類の自閉症モデルマウス(バルプロ酸モデル、母胎内免疫活性化モデル)においても同様に未成熟な脈絡叢が確認されました。これらのマウスに2型糖尿病治療薬メトホルミンを生後の社会性臨界期の前(生後早期)に投与したところ、脈絡叢の成熟に加えて臨界期の正常化を含む社会性行動の回復が認められました。さらに、自閉症患者由来のiPS細胞を用いて脈絡叢のミニ臓器(オルガノイド)を作製したところ、同様に未成熟な脈絡叢を示すことが明らかとなりました。
これらの結果は、自閉症の治療標的の1つが「未成熟な脈絡叢」である可能性を示した成果であり、新たな治療法の確立に道を拓くことが期待されます。
■発表雑誌■
雑誌名:Cell Reports (Cell press社)
論文名:Role of immature choroid plexus in the pathology of model mice and human iPSC-derived organoids with autism spectrum disorder
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2024.115133
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