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追手門学院大学などの研究チームがフッ化物超イオン伝導を示す新物質を創出 ― 次世代電池「全固体フッ化物イオン電池」の開発が大きく加速

Digital PR Platform / 2025年1月15日 14時5分

【研究の背景】  
 乾電池はラジコンの動力源であったが、我々はリチウムイオン電池の登場によって電気自動車を動かせるようになった。
 しかし、南海トラフなど不測の災害における大型据置型電源や電動航空機には、一層の高性能電池が必要となる。
 その候補として有力なのが、「全固体フッ化物イオン電池」(FIB)である。FIBは、フッ化物イオン(F⁻)を介する多電子反応を用いるため、原理上、リチウムイオン電池を凌駕する高いエネルギー密度を実現できる。また、フッ素はリチウムの50倍豊富に存在し、資源制約が少なく安価。加えて、全固体電池であるため、安全性も担保できる。しかし、現状の課題として、動作温度が室温をはるかに超える140゜C以上に限定される。この最大の要因は、固体電解質のフッ化物イオン伝導率が低いことにある。  
 そして、固体電解質においてのイオン伝導率向上には、イオンが通れるような"隙間(空孔)"を作り出すことが必要で、安定した構造の中で、どのようにその空孔を作り出すかが素材探索や化合物合成の鍵となっている。
 通常、フッ化物イオン伝導体は、高温(900~1000゜C程度)での固相反応法[用語7]により、熱力学的安定相として得られる。例えば、1000゜Cで合成される既存の固体電解質La₁₋ₓBaxF₃₋ₓでは、3価のLaを2価のBaで置換することで意図的に、x分のF空孔(F₃₋ₓ中のxに相当)を作り出す。F空孔はF⁻の拡散先となるが、この方法では導入できるF空孔量に限度があり、イオン伝導率は低いため、F空孔の導入についての抜本的見直しが必要である。

【研究内容と成果】
 フッ化キセノン(XeF2)を用いた低温(200 ゜C)での化学フッ化により、通常では複雑な構造(orthorhombic相)を維持するはずのところが、新奇で単純な構造(cubic相)へ構造相転移した(図1)。放射光XRD[用語8]の結果、このcubic相は銅超イオン伝導体α-CuBrの逆構造、すなわちCuサイトがFで、BrサイトがTlで構成されていることがわかった。中性子回折により、Fの位置や量を精密に評価したところ、x = 1の組成では、Fサイトに対するFの占有率が17%、F空孔が83%だった。これは元素置換を行わずとも、Intrinsic(内在的な)F空孔が世界最高レベルの割合で導入されていることを示している。また、この物質は少なくとも150゜C 付近まで化学的に安定で、SEM-EDX[用語9]の結果、TlとFは粒内にほぼ均一に分布している。Tl 4f XPSスペクトル[用語10]の結果からTlは1価であり、化学組成と合致した。温度上昇によりイオン伝導率は増加し、60 ゜Cで超イオン伝導域(>1 mS cm⁻¹)に達した。イオン伝導率の温度依存性から評価した活性化エネルギーは、0.3 eVと小さな値を示し、イオン伝導率は従来のorthorhombic相よりもはるかに大きな値を示した。なお電子伝導率は全伝導率の0.01%未満と非常に小さく、伝導種がイオンであることが示唆された。
 ニューラルネットワークポテンシャル動力学法[用語11]を用いた理論計算の結果、F空孔を介したF¯の拡散が示された。計算されたフッ化物イオン伝導率(6.8 mS cm⁻¹ at 400 K)と活性化エネルギー(0.4 eV)は、実験値(4.3 mS cm⁻¹ at 398 K, 0.3 eV)と良く一致しており、実験結果を理論計算でも再現できている。研究チームでは、こうした結果から優れたフッ化物イオン伝導体を実現するためには、従来の異種元素ドーピングによるExtrinsic F空孔の導入に基づく材料設計ではなく、Intrinsic F空孔を利用する新しい設計指針を提案する。

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