脳が酸性に傾く精神・神経疾患モデル動物を多数発見
Digital PR Platform / 2024年3月27日 10時3分
<背 景>
脳活動のエネルギー源として主にグルコースが利用されます。これまでの研究から、統合失調症注3や双極性障害注4などの精神・神経疾患の患者では、グルコースの分解によりエネルギーを産生する過程(代謝注5)に異常があることが示唆されています。これらの疾患では、グルコースが代謝されてできる酸性の代謝物である乳酸が増加し、それに伴い脳のpHが低下すると考えられています。しかし、これらの脳内の変化についてはいくつかの論争があります。すなわち、これらの変化は、疾患そのものに由来する病態に関連した現象なのか、あるいは、疾患そのものからではなく、抗精神病薬の服用など二次的な要因(混交要因)から生じた見かけ上の現象なのか(参考文献1)、という議論です。ヒト死後脳標本を用いた研究においては、このような要因を避けることは非常に困難です。しかし、モデル動物を活用すれば、混交要因となり得る各種要因を厳密に制御した状態で検証することができるため、混交要因に関わる論争を理解するための適切な代替手段であると私たちは考えました。
私たちは以前、統合失調症/発達障害、双極性障害、自閉症注6のマウスモデル5種類に共通して、脳のpHが低下し乳酸濃度が増加していることを見出し、これらの変化は疾患の病態に関連した現象であると提唱しました(参考文献2)。しかし、その他の精神・神経疾患の動物モデルにおける脳のpHと乳酸についての研究はまだ限定的であり、このような脳内の変化が一般性のある現象なのかは不明でした。さらに、脳のpHおよび乳酸量の変化がどのような行動異常と関連しているのかも明確ではありませんでした。
<研究手法・研究成果>
精神・神経疾患モデル動物は世界中に多種多様なものが存在します。私たちは、世界7カ国・計131名の研究者が参画する共同研究により、遺伝子改変やストレス負荷などを施した109種類の動物モデル、合計2,294匹のマウス、ラット、ヒヨコの全脳サンプルを収集し、pHおよび乳酸量を測定しました。この包括的な解析により、統合失調症/発達障害や双極性障害、自閉症のモデルに加えて、うつ病、てんかん、アルツハイマー病のモデルなど、多様な疾患モデル動物において、脳のpH・乳酸量の変化が共通の特徴であることを明らかにしました。
主な結果
疾患間で共通する現象:109種類のモデル動物の約30%で脳のpHおよび乳酸量に有意な変化が見られました(図1)。これらの大部分では、pHが低下し乳酸量が増加していました。これは多くの疾患動物モデルで共通して脳のエネルギー代謝の異常が生じていることを示唆しています。
原因は環境にも:健常な動物に心理的ストレスを与えたうつ病モデル(マウスとヒヨコ)や、うつ病の併発リスクが高い糖尿病や腸炎を誘発したモデルマウスでも脳のpH低下・乳酸量増加が見られました。これは、様々な後天的な環境要因が原因となる可能性を示しています(図2)。
統合失調症/発達障害への示唆:以前に私たちが解析した以外の統合失調症/発達障害のモデルマウスでも脳のpH低下と乳酸量増加が確認されました。
認知機能との関連:109種類のモデル動物うち、最初にデータを取得した65種類を探索群とし、乳酸データと行動試験データを統合した解析を行いました。これにより、脳の乳酸量変化が行動レベルでの機能発揮に関連していることが示唆されました(図3)。特に作業記憶注7の低下が乳酸量の増加と関連していることが明らかになりました(図4)。
再現性確認で強固な証拠:残りの44種類のモデル動物を確認群とした独立した研究で、脳の乳酸量増加と作業記憶の低下との関連を再確認しました。
自閉症の複雑性:自閉症モデルマウスにおいては、pH低下と乳酸量の増加を示すモデルと、それとは逆のpH増加・乳酸量低下を示すモデルが複数見つかりました(図1)。これは、個人によって症状が大きく異なる自閉症における患者サブグループ(個人差)に対応している可能性が考えられます。
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