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蚊は腹八分目を知る

Digital PR Platform / 2024年6月21日 11時25分

蚊は腹八分目を知る

-吸血停止シグナルの発見-

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター栄養応答研究チームの佐久間知佐子研究員(元東京慈恵会医科大学講師)、東京慈恵会医科大学熱帯医学講座の嘉糠洋陸教授らの共同研究グループは、哺乳類の血液中に存在する「フィブリノペプチドA(FPA) [1] 」が、ネッタイシマカ [2] の吸血を停止させる作用を持つことを発見しました。
本研究成果は、ウイルスなどの病原体を媒介する蚊の根源的な行動である吸血の仕組みの理解や、人為的に吸血を阻害する手法の開発など新たな感染症対策への応用が期待されます。

宿主の皮膚に止まって血を吸い始めた蚊は、血中に存在する吸血促進シグナルを受容することで吸血を継続させます。多くの場合、蚊は満腹になる(腹部が膨満する)前に吸血を停止し宿主から離れますが、吸血を停止させるシグナルについてはよく分かっていませんでした。
今回、共同研究グループは、宿主の血液が凝固するときに産生されるフィブリノペプチドAが、吸血の進行に伴ってネッタイシマカの体内で蓄積され、吸血促進シグナルよりも優位に作用して吸血を停止させることを見つけました。フィブリノペプチドAは哺乳類間で高度に保存されている分子であり、蚊はフィブリノペプチドAを吸血停止シグナルとして利用することで、さまざまな宿主に対する吸血を「腹八分目」で終えることができると考えられます。
 本研究は、科学雑誌『Cell Reports』オンライン版(6月20日付:日本時間6月21日)に掲載されます。なお、本研究成果のイメージ写真が、同誌6月25日号の表紙として取り上げられます。

背景                                  

蚊に刺される(血を吸われる)と皮膚がかゆくなるだけではなく、日本脳炎やマラリア、デング熱などに感染する恐れがあります。メスの蚊が行う吸血は、これらの病原体が私たちに伝播(でんぱ)される根本的な原因となる行動です。すなわち、吸血行動の仕組みを理解し、人為的に吸血を抑制するような行動操作ができれば、蚊による感染症の媒介を防ぐ新たな手法の開発につながる可能性があります。
蚊はヒトなど宿主の存在を体温や呼気などで感知し、誘引されますが、全ての蚊が吸血を開始するわけではありません。宿主の皮膚の中へと針(口吻(こうふん))を出し入れすることにより血管を探り当て、さらに血液の味を吟味して吸血の実行の可否を決定します。このときに蚊の吸血を促進する物質として、宿主の血液に含まれるアデノシン三リン酸(ATP)[3]が知られています。
ひとたび吸血を開始すると、宿主の血液にはATPが常に存在するので、蚊は吸血促進シグナルを受け取り続けることになります。一方で、長時間の吸血は宿主に気付かれるリスクを高めるため、適当なタイミングで吸血を停止する必要があります。そこで、吸血促進作用とは逆に吸血停止に関わる負の制御として、血液の摂取によって腹部が膨満することによる物理的な制御機構が報告されていました注)。しかし、一定量以上の血液を吸った蚊は、腹部が完全に膨満していなくとも吸血をやめることも知られており、他の制御機構の存在が示唆されていたものの、実体は明らかになっていませんでした。
注)Gwadz R.W., J. Insect Physiol.,15, 2039-44 (1969).

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