ずっと効く免疫抑制化合物の発見
Digital PR Platform / 2024年7月19日 18時0分
研究手法と成果
今回、共同研究グループは、これまでの知見を参考に化合物スクリーニングを行い、S1PR1の作用を抑制する新しい化合物としてKSI-6666を同定しました。一般に、S1PR1調節薬を投与すると血液中のリンパ球が減少することから、リンパ球が減少している時間の長さが薬効持続性の目安となります。KSI-6666ではラットのリンパ球の減少が48時間以上持続しました。さらにKSI-6666は、自己免疫疾患である多発性硬化症[5]や炎症性腸疾患[6]のマウスモデル実験で、これまでのS1PR1調節薬とほぼ同等の治療薬効を持つことが分かりました(図1)。そして、重要なことに、既存のS1PR1調節薬とは異なり、S1PR1を一時的に活性化させないため、徐脈の副作用がありませんでした。すなわち、KSI-6666は既存の医薬品とほぼ同様の薬効と持続性を持ち、しかも副作用の少ないS1PR1調節薬であると判明しました。
[画像2]https://digitalpr.jp/simg/1706/91833/600_261_2024071813292866989a28c961d.jpg
図1 KSI-6666の持続的な薬効と自己免疫疾患の治療成績
KSI-6666投与後のラット血中リンパ球数の減少(左)と多発性硬化症マウスモデル(実験的自己免疫性脳脊髄炎)の病態改善(右)。コントロールは薬物なし。pは統計学的有意差(二元配置分散分析)。代表的なデータとして示した。
そこで共同研究グループは、KSI-6666の薬効が持続性を示す機構の解明に挑みました。
まず、KSI-6666がどのような状態でS1PR1と結合しているのかを調べるために、KSI-6666とS1PR1の分子ドッキング計算[7]を行いました。その結果から予測される構造や結合親和性は、持続性のない調節薬とほとんど違いがなく、KSI-6666の特長である薬効の持続性の説明には不十分でした。そこで、分子動力学計算[8]の一つであるメタダイナミクス法[9]を用いて、S1PR1に結合したKSI-6666が解離する過程をシミュレーションしました(図2上)。その結果から、KSI-6666は、薬効が持続しないS1PR1調節薬(対照薬)に比べ、S1PR1から解離しにくい、と予想しました。実際に、結合したKSI-6666がS1PR1から解離する半減期(解離半減期[10])を測定したところ、9.41時間であり、持続性のない調節薬の解離半減期(0.2時間)と比べて解離が遅いことが判明しました(図2下)。
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