自主製作映画の収蔵から上映まで――「わらじ片っぽ」の軌跡【国立映画アーカイブコラム】
映画.com / 2024年3月10日 16時0分
寄贈の際には、監督ご自身が状態を確かめたいと当館の保存庫のある相模原分館までお越しになり、江口さんと当館技術職員とともに編集機で「わらじ片っぽ」の上映用ポジをご覧になりました。ただし、この時点ではどのような企画で本作を上映するか決まっていたわけではありません。上映にむけて動きだしたのは、ご寄贈から3年後、特集上映「日本の女性映画人(2)——1970-1980年代」の開催にむけ作品選定をしていた研究員の森宗厚子さんが本作に着目し、上映作品に挙げました。
しかし、寄贈された上映用ポジは傷や経年による収縮などがあり、映写機にかけることができない状態でした。なので、本作を上映するためには、オリジナルネガから新たに上映用素材を作製する必要がありました。実際の作業は、寄贈の受け入れや所蔵フィルムの管理を担当する映画室が、株式会社IMAGICAエンタテインメントメディアサービスさん(以下、IMAGICA EMS)に依頼しました。検査してみると、画ネガは、収縮や部分的にフィルムの成分の変質が進んでいる箇所はありましたが、大変きれいな状態でした。一方、画ネガより劣化しやすい傾向のある音ネガは、フィルムが巻かれた状態で部分的に固着・溶解しており、はがすことが困難であったため、使用することは諦めざるをえませんでした。しかし、もうひとつ、本作の音声を記録している素材があります。当時の上映用ポジです。映写機にかけられなくても、スキャンして音声データをとりだすことはできます。
ここでIMAGICA EMSさんから、デジタル化の素材について画・音ともに上映用ポジを使用する案と、音は上映用ポジ、画は画ネガを使用する案が提示されました。ただし、後者の案は、画ネガと上映用ポジの2本をスキャンする必要があり、また、上映用ポジに部分的な欠落などがなく、音声がオリジナルネガの画とぴったりと合うかどうかの確認など作業工程がどうしても増えてしまいます。しかし、今回は後者のプロセスを選びました。この判断を最終的に行った映画室長の大澤浄さんは次のようにその理由を話します。
「監督がお持ちだったVHSで初めて本作を見ました。そのとき、VHSで見ても、撮影がとても素晴らしいことがよく分かりました。これはオリジナルネガと比較して情報量の少ない、しかも傷の入った上映用ポジからではなく、絶対にオリジナルの画ネガからデジタル化すべきだと思いました。そこで、画ネガの経年劣化が最も進んでいる箇所だけを試しにデジタル化してもらい、どれほどの影響が画にでてしまうかをチェックし、結果、画ネガを用いることに問題はないと判断しました」
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