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石井岳龍監督×永瀬正敏が解き明かす、「箱男」27年分の思い【インタビュー】

映画.com / 2024年3月20日 12時0分

――四半世紀のあいだ、映画化にこだわられてきた一番の理由とは何でしたか。

 石井「この作品のテーマが、自分にとって映画とは何かということ、たとえば見ること見られることの意味を問うて来るし、自分が出会った原作のなかでもっとも手強く興味深いキャラたちが自分を惹きつけてやまなかったということがあります。自分のなかで、その都度違う形ではあったけれど、映画という形のひとつの回答を模索して、それが今回の最終形態では時代とぴったり合った。原作は匿名性の果ての、都市に暮らす現代人がいかに自分でつくりあげた妄想の世界の中に閉じこめられているかということを、単純な見方ではなく、とても重層的な形で描いています。妄想という僕らが閉じこもっている箱は幾重にも重なっているということ、それは情報化社会が人間にもたらすアイデンティティの拡大による喪失を予言していました。現代はひとりひとりがコンピューターやスマホを持って、その世界に閉じこもっている。まさに安倍さんが予言した世界のなかに閉じこもっていることが、年月を経てはっきりしてきた。それで作られるべくして作られたという気がしています」

――永瀬さんはこの27年間、どんな気持ちで石井監督のことをご覧になっていたのでしょうか。

 永瀬「僕はそれ以降も監督にちょくちょくお世話になって、その度に監督が諦めてはいないとおっしゃっていたので、それをずっと心に持っていました。ただ27年のあいだにもいろいろとドラマがあったので、監督の思いが、それこそ映画の神様に通じたのではないかと。これだけ時間を経て映画が完成したのは、世界でもあまり例を見ないんじゃないでしょうか」

 石井「『テリー・ギリアムのドン・キホーテ』みたいな(笑)」

 永瀬「しかも出てくる役者も当時と一緒で。まさにできたのが奇跡というか。そこに立ち会えたのは、幸せでしかなかったです」

 当時から改訂された脚本は、原作のシュールさはそのままに、より現代の情報化社会の匿名性が生み出す怖さや孤独といった共通点が強調されている。頭からすっぽりと箱を被った男が都市を徘徊し、覗き窓から世界を観察しながらその妄想をノートに書き記す。だが、そんな彼をつけ狙い執拗に攻撃する男(渋川清彦)、箱男の存在を乗っ取ろうとする偽医者(浅野忠信)、箱男を誘惑する謎の女(白本彩奈)、箱男を完全犯罪に利用しようと企む軍医(佐藤浩市)などが絡み合い、箱男が「本物の箱男」たらんとすることを妨害する。ファンタジックな要素もある本作を、石井監督は本人称するところの「マジカル・ミステリー・ツアー」のような、怪しくパワフルでいて吹き出すような面白さを秘めた異色の作品に仕立て、ベルリンの観客を沸かせた。

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