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「ピアノ・レッスン」30年前に撮られたすごい映画 普通とはちがうコミュニケーションで発情する二人、それぞれの人生の孤独【二村ヒトシコラム】

映画.com / 2024年3月30日 22時30分

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(C)1992 JAN CHAPMAN PRODUCTIONS&CIBY 2000

 作家でAV監督の二村ヒトシさんが、恋愛、セックスを描く映画を読み解くコラムです。今回は第66回アカデミー賞主演女優賞・助演女優賞・脚本賞を受賞、第46回カンヌ国際映画祭では、女性監督として初のパルム・ドールに輝いたジェーン・カンピオン監督の「ピアノ・レッスン」(92)。公開当時は繊細な愛の物語と大胆な官能表現が話題を集めました。現在4Kデジタルリマスター版が劇場公開中の本作の魅力に迫ります。

※今回のコラムは本作のネタバレとなる記述があります。

▼30年前に撮られたすごい映画

 30年前に撮られた映画ですが、すごい映画でした。しかもエロかった。「30年前に撮られたとは思えない」のではないです。むしろ、これは30年前だから撮れたんだと思います。

 エロい描写が過激というわけではないです。描写はおとなしいんですけどシチュエーションがやばい。

 主人公エイダ(ホリー・ハンター)は口をきかない人です。きけない、のかもしれません。しゃべらない代わりに手話と筆談をし、ピアノを弾きます。映画の冒頭で「私は6歳で口をきくのをやめた」というナレーションがあります。そして、それがなぜなのかは最後まで描かれませんし、本人も自分でなぜなのかわからないと言う。

 言葉で伝える(つまり嘘をつくこともできる)と、なにか大切なものを伝えそこなうのではないか。ある人間の人生やセックスや恋愛は、言葉では語れないのではないか。これから始まるこの映画は、口をきかない私が主人公なのだから、私は映画の観客であるあなたを説得することはできないし、しようとも思わない。だけど(だから)この映画は(すくなくとも私にとって)真実である。そんなメタメッセージを僕は映画の冒頭でいきなり受けとってしまったのですが、同時に、エイダが6歳の時に何が起きたのだろうという疑念も湧きます。

 エイダにはちょうど6歳くらいの娘フローラ(アンナ・パキン。天才子役です)がおり、ナレーションは「これから私は娘とともに、顔も知らない人のもとに嫁ぐ。夫になる人は、私が口がきけなくともかまわないと手紙に書いてきた」と続くのですが、じゃあフローラの父親は誰なんだ。

 映画が作られたのは今から30年前ですが、物語の舞台はそれからさらに百数十年前、19世紀の半ばです。エイダとフローラ母娘はイギリス人で、貴族とまではいかないけどお金持ちの家に生まれたのでしょう。エイダがフローラをつれて嫁いでいく先は、はるかニュージーランドの植民地です。同じような身分のイギリス人たちが入植しており、彼らは純粋な白人の子供をどんどん産める花嫁および先住民から土地を奪う資金になる花嫁の持参金がほしいのでしょう。

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