【「美と殺戮のすべて」評論】ある芸術家と製薬会社一族の戦い。アートと製薬ビジネスの振れ幅がダイナミック
映画.com / 2024年3月31日 16時0分
「美と殺戮のすべて」 (C)2022 PARTICIPANT FILM, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
タイトルがとても印象に残るドキュメンタリーです。「美と殺戮のすべて」原題は「All the Beauty and the Bloodshed」なのでほぼ直訳。この少しヘビーなタイトルから、どんな映画を想像するでしょうか? 私は漠然と、ラスコーやアルタミラといった先史時代の洞窟壁画と、そんな洞窟を根城に狩猟生活を送っていた人類のワイルドライフみたいなものを思い浮かべていました。人類が野生動物を狩って(殺戮して)暮らしていた時代のイメージ。しかし当たり前ですが、全然違いました。映画は現代のニューヨーク、メトロポリタン美術館のシークエンスで幕を開けます。
本編を見続けるに従って、題名が醸し出す「ヘビーな感じ」は想像以上に高まります。これは、ある芸術家(写真家)が、現代のアメリカにおける薬害とも言える「オピオイド危機」をもたらした製薬会社一族と果敢に闘った様子を記録した映画です。すなわち「美」とは主人公ナン・ゴールディンの芸術活動や作品を示しています。さらには、製薬会社一族が蒐集し、ルーブルやメトロポリタンやグッゲンハイムといった有名な美術館に寄贈したアート作品の数々をも象徴しています。そして、その一族の蒐集するアート作品は、一族の会社が開発したオピオイドによって得られる莫大な収益が原資。そのオピオイドは、50万人以上の人々を死に至らしめている(「殺戮」している)という現実。
とにかくこの映画は、被写体の間の振れ幅がダイナミックです。文字通り、美と殺戮の間を行ったり来たりするのです。主人公ゴールディンの1970年代〜80年代NYにおけるアバンギャルドで退廃的な生活を右脳で楽しみながら、パーデュー・ファーマ社およびサックラー家の独善的なビジネスモデルを左脳で整理するというように、使う脳パートの切り替え作業が忙しい。
監督は「シチズンフォー スノーデンの暴露」でアカデミー賞受賞のローラ・ポイトラス。このナン・ゴールディンの案件を見つけ、4年以上密着した結果、映画のクライマックスに描かれる非常に大きな成果を得ました。どんな成果を得たのかは是非本編でご確認ください。アートが好きで、海外の美術館をよく訪れる人ならば、目からウロコが何枚も落ちること請け合いです。本作もアカデミー賞ノミネート。また、ベネチア国際映画祭では金獅子賞を受賞しています。
(駒井尚文)
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
私が主役、私がルール――10年以上の長きに渡る<愛>の物語 『チャレンジャーズ』キャラクター紹介動画「タシ」編公開
クランクイン! / 2024年5月3日 12時0分
-
三越伊勢丹が小学館との新プロジェクト「マスターピース漫画コレクション」を始動。第一弾は「ポーの一族」 日本橋三越本店で企画展を開催
PR TIMES / 2024年4月24日 18時15分
-
クレア・フォイ、ラストシーンは「本気で泣いていました」『異人たち』インタビュー&本編映像到着
cinemacafe.net / 2024年4月24日 17時0分
-
アン・ハサウェイ主演『ブルックリンでオペラを』より本編映像解禁! 驚きと感動のハッピー・ストーリー
ガジェット通信 / 2024年4月17日 20時0分
-
2024年4月15日、1874年の第一回印象派展から150年。「印象派誕生150年記念 平松礼二展−北斎やモネの囁きが聴こえる」銀座にて開催
PR TIMES / 2024年4月8日 10時15分
ランキング
-
1伊藤沙莉がこよなく愛する酒と彼氏 朝ドラ「虎に翼」終わりで〝電撃結婚〟も
東スポWEB / 2024年5月5日 5時39分
-
2山田邦子と共演NG!?「私のこと嫌ってると思う」女性タレント告白 「年齢は一緒なんだけど…」
スポニチアネックス / 2024年5月5日 22時40分
-
3『鬼滅の刃』時透兄弟の物語に号泣の嵐 無一郎の無は“無限の無”「有一郎の優しさ…」「切ない」
ORICON NEWS / 2024年5月5日 22時20分
-
4松本人志と渡邊センスが性的トラブル疑惑で“共闘”…裁判を大きく左右「馬乗り写真」の真贋
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年5月6日 9時26分
-
5ヒカキン「年内4000万人」ペースで“超爆増”も…「登録者買ってない?」疑惑に本人が言及
スポニチアネックス / 2024年5月5日 20時1分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください