【「リンダはチキンがたべたい!」評論】庶民の魅力とアニメーションの底力に溢れた快作
映画.com / 2024年4月14日 10時0分
「リンダはチキンがたべたい!」 (C)2023 Dolce Vita Films, Miyu Productions, Palosanto Films, France 3 Cinéma
スクリーンから溢れ出す線と色と音楽。豊かなヴィジュアルイメージの交錯と変転。まさに、アニメーションの力技によって子供たちと庶民の魅力を照らし出した快作である。
スト決行に殉じる大人たちと、チキン料理を巡って騒動を起こす子供たち。それぞれが「良かれ」と思う方向へ疾走することで事件が次々と発生。それらの連鎖と刻々と変転する状況が、軽快な歌で綴られていく。人物たちが懸命に頑張るほど、そこにユーモアや風刺が生まれ、観客はただハラハラしながら見守るしかない。
日本の作り手と観客は、膨大な情報量で立体=3D処理を突き詰めた「フォトリアルCG」より、平面=「2Dセルルック」を支持し続けて来た。その要はダイナミックなアクションから繊細な日常芝居まで、万物を線と色面で端的明瞭に描き切る作画だ。一方で、舞台となる背景美術は異世界でも現代でも、同様に写実的に描かれて来た。二つの異なる作画様式の折衷によって、個性的人物に自らを投影し、リアルな世界に没入することが可能となり、ドキドキしながら鑑賞する「なり切り体験型」演出が発展。世界でも類例のない量産を実現した。
本作も基本は2D作画だが、国内作品とは印象が全く違う。人物も背景も粗い素描に特定の色を重ねただけという、極めてシンプルな作画スタイルだ。各人物は全身単色で、群衆シーンは絵の具を散らしたパレットのようにカラフル。画面の情報を削ぎ落としたことで返って個々の特徴が際立ち、ちゃんと識別も出来る。「アート系」に見えても難解でも深刻でもなく、快活なコメディから外れることはない。そこで得られる共感や笑いは主観的「なり切り型」とは一味違う、隣人を気遣う客観的同情的なものではないか。それは、かつて高畑勲監督が「ホーホケキョ となりの山田くん」(1999)で追求した作風に通じるものだ。
キアラ・マルタ監督とセバスチャン・ローデンバック監督によると、まず演者が自由に演じた声を収録して編集し、それに合わせてアニメーションを制作したと言う。プロ俳優によるアフレコではなく、友人の子供らを起用した自然なプレスコアリング(レコーディング)。色彩設計については、リンダを「雨の日の太陽」をイメージした黄色に設定。そこから母はオレンジ、叔母はビンクと家族のカラーを同系色で固め、周囲の人物たちも自然と決まって行ったそうだ。作画に参加したアニメーターはわずか7人だったらしい。
本作の技術的達成は、少人数で日々濃密な打ち合わせを行い、机を並べて競うように描くという、伝統的な制作スタイルを貫いた成果でもあるだろう。大予算の超大作とは異なる素朴な手作り感は、「動く絵で人を感動させる」というアニメーションの本源を示しているようで嬉しい。
(叶精二)
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