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孤独の中で生きてきた高齢の同性愛者が初めて経験する出会いと別れのドキュメント「94歳のゲイ」 吉川元基監督に聞く

映画.com / 2024年4月19日 10時0分

 「長谷さんはそれまで大阪の違う街に住んでいましたが、89歳の時に西成にやってきて、『もう隠すものはない、本当の自分をさらけ出そう』と決意し、ゲイだということを周りに明かしたそうです」

 本作の取材は2021年冬から2年をかけて行われた。吉川監督は取材当初の心境をこのように吐露した。

 「長谷さんと出会った最初の頃は、電話もお持ちではなかったので、とにかく家に行って撮影するという形で、週4回くらいお宅にうかがっていました。カメラを拒否するような感じもなく、サービス精神のある方で、いつもたくさんお話をしてくださいました。でも、最初は私の人間性を探っているような形で、まず『あんた結婚してるの?』と尋ねられ、『僕は一人や。おかしいなって思うやろ』と聞いてきて。それに対して自分自身もどう返したらいいかわからなくて……長谷さんにどこまで人間的に近づけるか、不安に思ったことはあります」

 長谷さんに対する吉川監督の誠実さは、本編で映し出されるさまざまなエピソードから窺える。

 「長谷さんの自宅に通う人が、本編にも登場するケアマネージャーの梅田さん以外にほとんどいなかったんです。長谷さんは話好きなのですが、足が悪くて外出があまりできないので、私が訪問して様々な話を聞いたり、長谷さんが書いた小説6冊を全部読んで、『ここが面白かったです』と、感想を言ったり、毎日2回出かける炊き出しに、私も一緒にカメラを回さずについて行きました」

 「この映画版はまだご覧になっていないのですが、2022年にテレビ放送した番組では『かっこよく撮影してくれてありがとう』」と言ってくださいました」

 テレビ放送がきっかけとなって、長谷さんに新たな出会いがもたらされる。この映画では、東京在住のボーンさんが、TBSでの再放送を見たことから「ゲイの高齢者のロールモデルとして興味を持った」と、大阪の長谷さんを訪ねるのだ。優しく、しかもハンサムなボーンさんは、まさに長谷さんの“タイプ”のど真ん中。年齢差を超えて、少しずつ距離を縮めながら互いへの敬意と愛情が伝わる関係を構築していく姿に心を揺さぶられる。

 「私たちもびっくりしました。長谷さんが心の慰めだと言って部屋の壁に貼っている、俳優さんたちの一番大きい写真にそっくりな人が現れるんですから。そして、取材者である私に対する話し方と、梅田さんやボーンさんに対する態度が全く違うのを感じました(笑)。同性愛者である、梅田さんやボーンさんに対しては、長谷さんからの質問が多いんです。長谷さんにも、ここまで心を許せる人がいるのだと驚きました」

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