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ファッションにおける心理学、社会学が存在する伊賀大介氏の仕事 「ジョゼと虎と魚たち」から近作「PERFECT DAYS」「地面師たち」をチェック【湯山玲子コラム】

映画.com / 2024年12月15日 11時0分

ファッションにおける心理学、社会学が存在する伊賀大介氏の仕事 「ジョゼと虎と魚たち」から近作「PERFECT DAYS」「地面師たち」をチェック【湯山玲子コラム】

「PERFECT DAYS」 (C)2023 MASTER MIND Ltd.

 「映画のファッションはとーっても饒舌」という湯山玲子さん。「映画ファッション考。物言う衣装たち。」は、おしゃれか否かだけではなく、映画の衣装から登場人物のキャラクター設定や時代背景、そしてそのセンスの源泉を深掘りするコラムです。

 日本映画は衣装に関して、ずっと無頓着だった。

 自身の映画に染織家の浦野理一の着物を採用し、登場人物の風情を表した、小津安二郎など、ご本人がディレッタントでもあった伊丹十三など、美学を重んずる監督以外、ファッションについてそれほどの感心がなかったからだろう。

 特に女性に関しては惨憺たるもので、お嬢様、不良少女、女子学生、主婦、水商売、愛人と、実はそれぞれの装い方のリアルには、おカネのあるなし、地方と都会、登場人物のバックグラウンドなど、細やかなレイヤーがあるにも関わらず、紋切り型ばっかり。愛人ならば、ミニスカートにシーム入れストッキングにハイヒールに赤い口紅で一丁上がり、というお手軽パターンです。

 さて、80年代以降、これまでの衣装担当のセンスでは、さすがにちまたのオシャレ感覚には追いついていけない、と危機感を感じた創り手たちは、今度はファッションの花形たる有名スタイリストに、衣装を丸投げするという流れも出てきた。しかし、これも考えものであり、抜擢された著名なスタイリストが、映画の内容とは関係なく、おのれのクリエイティヴを勝手に爆発させてしまって、悲惨なことになってしまった作品も多いのだ。

 でもって、伊賀大介である。

▼ファッションの社会性を表現した「ジョゼと虎と魚たち」

 メンズノンノらの男性ファッション誌や、ミュージシャンのスタイリングで知られた彼が最初に映画の衣装を手がけたのは、「ジョゼと虎と魚たち」という、田辺聖子の小説を犬童一心が監督した、足の不自由な少女と平凡な大学生の切ない恋愛映画だった。この作品は、一般公開以前から、業界関係者間でたちまち高い評価を受けた作品だが、試写を観た私が仰天したのは、その衣装スタイリングの素晴らしさであり、宣伝担当に「衣装担当って誰?」と名前を聞いた記憶がある。

 大阪の貧民街に老婆とともに住む足の悪いハンディキャップの少女、ジョゼ。老婆はジョゼを乳母車に入れて明け方の街をさまようのだが、まず、その老婆の着こなしが凄いのだ。開発途上国のゲットーには、古着を重ね合わせて着こなす、異様にカッコいい住人たちがいたりするのだが、まさにそんな感じのコーディネイト。黄土色のダッフルコートの裾から柄物のロングスカートがはみ出した感じは、まさにこの作品に描かれていく「貧しさ、悲惨さの中にある高潔なエレガンス」の前触れだったのである。

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