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松重豊、これまで参加した撮影現場で最も幸せな気持ちになった食事は?【「劇映画 孤独のグルメ」インタビュー】

映画.com / 2025年1月8日 18時0分

■これまで撮影現場で食べたものの中で、最も幸せな気持ちになったものは?

 ロケ先での食事の話を聞いているうちに、腹が減ってきた。松重はこれまでのキャリアで、150本以上の映画に出演している。規模の大小は問わず、これまで撮影現場で食べたものの中で、最も幸せな気持ちになったものが何かを聞いてみた。

 「これまでにもエッセイなどで書かせてもらっていますが、俳優の仕事をしていて冬場の冷たい弁当というのが応えるんです。カチンカチンに凍ったご飯を口に入れるのが、辛くてね。そんななかで、ツインズという製作会社の創業者・神野智(かんの・さとし/22年に死去)さんは現場で毎日、豚汁を作ってくれたんです。

 神野さんのことを知らない俳優は、豚汁を作ってくれるおじさんだと思っているんですが、あの人は“温かいものを食べさせることは映画作りの基本中の基本”という姿勢をお持ちでした。『温かいもん食ったんだから、午後からも良い芝居をしてくれよ』ってね。僕らにとっても一番励みになるし、嬉しいんですよね。黒沢清監督作『カリスマ』の現場で作ってくれた豚汁の味は、未だに忘れられないです」

 空腹の臨界点はとっくに達しているが、伊丹十三監督作「タンポポ」へのオマージュについても聞かずにはいられない。

 「伊丹さんは俳優としても大ベテランでいらっしゃったわけですが、その方が映画(『お葬式』)を撮った、それがまたエンタメでありながら実験的要素も含まれていて、なんだこの新しい映画の楽しみ方を提示してくれる人は! と思ったんです。それからすぐに『タンポポ』を撮られた。

 僕は当時、ラーメン屋(東京・下北沢にある泯亭)でバイトしていたものですから、ラーメンをキーワードにして人間のドラマをエンタメでも、実験的にでも両方あぶり出して作られていることに衝撃を受けました。ただその後、日本映画において食べ物を扱う系譜というものは途切れたな…と思っていました。今回『孤独のグルメ』を映画化する際、日本の食べ物映画として何をベンチマークにしたらいいかなと思ったとき、僕にとっては『タンポポ』だなと感じたんです。

 調べてみたら、40年前の作品なんですよ。40年前なのに、改めて観返してみるとやはり面白い。1980年代と2020年代とでは、飲食店を取り巻く状況は大きく変わってきていますよね。いまは飲食店が大変な時代。そこは今回の映画にするときの主旋律として、一番大事にしたいところでしたので、『タンポポ』へのオマージュをふんだんに盛り込んだつもりです」

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