「他者との関係によって、彼という人物は形成された」アリ・アッバシが追求する“人間”ドナルド・トランプの変容
映画.com / 2025年1月19日 9時30分
MAGA派の人々と個人的に話す機会はあまりなかったのですが、オンラインではいくつか見かけました。猛烈な批判やネガティブな反応もありえると思っていたんですが、面白いことに否定的な意見はほとんどなかったんです。宣伝や広報などを見た彼らは、本作がトランプを中傷する内容と思っていたようですが、実際のところきちんと一人の人間として描いていると感じてくれました。
一方で私の友人たちをはじめとするリベラル派の人々はトランプが本当に大嫌いなので、当初は「彼の映画なんて観たくない」という反応でした。でもいざ作品を観ると、トランプという人間を理解することができたと言っていましたね。興味深かったのは、トランプにシンパシーを感じるような反応が得られたことでした。
――両陣営に挟まれ、アメリカでの公開は大変だったのでは。
アメリカにおいて本作の公開に苦労した理由のひとつが、本作がリベラル派にも保守派にも受け入れられない映画のように見えたことにあったと思います。先ほど述べた感想を知らないと、リベラル派の人々は「ドナルド・トランプの映画なんてうんざり。名前すら聞きたくない」と言うでしょう。そしてMAGA派の人々も「共産主義者と組んで、トランプを悪者に仕立て上げようとする変なリベラルが現れた」と批判すると思います。そして両陣営ともいざこの映画を観ると、それが誤解だったと理解するのがとても面白かったですね。
――本作はドナルド・トランプを悪魔化せず、あくまで一人の人間として描くことに軸を置いていたかと思います。Esquireのインタビューでも「これは人間の変容についての映画だ」と語っていましたが、監督としてそのスタンスを取った理由を伺えますか?
ドナルド・トランプを一人の人間として見ることはとても重要だと思ったからです。彼とロイ・コーンを複雑な内面を持つ人間として描くことで、彼らが持つ権力や影響力のみならず、彼らを取り巻くアメリカの構造がどのようなものになっているかということまで掘り下げられる作品にできると考えました。
この2人については、これまでにもさまざまな映像作品やドキュメンタリーがつくられています。彼らは悪党や卑劣な人間だったり、あるいはヒーローだったりとあらゆる視点から語られてきました。でも我々はそこに何かを付け加えるような描き方はできないし、やりたくもありませんでした。個人的に興味があり、観たかったのは彼らの人間性。だから本作では彼らを人間として見せるようにしたんです。
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