遺産分割の前に知っておきたい2つの制度~「特別受益」と「寄与分」について~
ファイナンシャルフィールド / 2023年10月22日 9時50分
相続人が2人以上いる場合、各相続人が納得して公平に遺産分割をしたいものです。相続人のなかに被相続人から生前に多額の贈与を受けていた人がいた場合や、被相続人の財産の維持または増加について特別に寄与した人がいた場合、この点を考慮せず遺産分割を行うと相続人の間で不満が生じます。 この不満を解消する制度として、「特別受益」と「寄与分」があります。
特別受益とは
特別受益とは、被相続人(亡くなった人)から受けた生前贈与や遺贈をいいます。具体的には、次の贈与が特別受益に該当します。
なお、一部の相続人が死亡保険金を受け取った場合、死亡保険金は特別受益には原則該当しません。死亡保険金は受取人固有の財産だからです。
■婚姻または養子縁組のための贈与
例えば、結婚用として子どもへの持参金や支度金などが該当します。結納金や挙式費用は、通常含まれません。
■生計の資本の贈与
例えば、居宅の贈与や開業資金の提供が該当します。高等教育費用や留学資金については、常識的な範囲であれば該当しないとされています。他方で私大医学部の場合には、高額となる入学金や授業料が特別受益に該当する傾向にあります。
特別受益の計算は、特別受益を相続財産へ持ち戻し(加算)、特別受益があった人の相続分を減額します。
なお、特別受益の持ち戻しは、贈与契約書や遺言などで明示しておけば、被相続人の意思表示によって免除できます。ただし、明示がない場合でも、配偶者の権利保護の観点から、20年以上婚姻している配偶者に対して、被相続人が居住用不動産を遺贈・贈与した場合には、「持ち戻し免除の意思表示」があったと推定されます。
特別受益の計算例
以下のケースで、特別受益を考慮した具体的相続分を計算してみましょう。
[事例]
亡くなった夫の遺産が1億円だったとします。相続人は妻と長男、次男の3人です。妻は4000万円の居住用不動産の生前贈与、長男が2000万円の遺贈を受けたとします。
[計算過程]
みなし相続財産:遺産+生前贈与+遺贈=1億6000万円です。
これを法定相続分にしたがって分配すると、妻の法定相続分は2分の1、長男、次男はそれぞれ4分の1なので、妻:8000万円、長男:4000万円、次男:4000万円となります。
相続分を修正(特別受益分を減額)して、各相続人の具体的相続分を計算すると、次の結果になります。
妻:8000万円-4000万円=4000万円
長男:4000万円-2000万円=2000万円
次男:4000万円
寄与分とは
共同相続人のうち、被相続人(亡くなった方)が営んでいた事業への労務提供や、療養看護を通じて被相続人の財産の維持または増加について特別に寄与した相続人には、法定相続分のほかに寄与分が認められます。
特別受益と違い、労務の提供や療養看護は、金額に置き換えることが困難です。また、療養看護については、扶養義務との線引きも難しいです。したがって、寄与分については、相続人間の話し合いで決めざるを得ないといった現実があります。話し合いがまとまらず、調停や審判に発展する場合もあります。
ところで、寄与分が認められるのは相続人に限られます。したがって、長男の嫁が被相続人の介護に献身的に努めたとしても寄与分は認められません。
この点に関し、民法改正により、相続人以外の方が無償で被相続人の療養看護等を行った場合、一定の要件のもとで、相続人に対して相続(遺産分割の手続き)とは別の枠組みで特別寄与料(金銭)の支払いを請求することができるようになりました(2019年7月1日施行)。
寄与分の計算例
以下のケースで、特別受益を考慮した具体的相続分を計算してみましょう。
[事例]
亡くなった夫の遺産が1億円だったとします。相続人は妻と長男、次男の3人です。長男は父の事業の発展に貢献し、2000万円の寄与がありました。
[計算過程]
みなし相続財産:遺産-寄与分=8000万円です。
これを法定相続分にしたがって分配すると、妻の法定相続分は2分の1、長男、次男はそれぞれ4分の1なので、妻:4000万円、長男:2000万円、次男:2000万円となります。
相続分を修正(寄与分を加算)して、各相続人の具体的相続分を計算すると、次の結果になります。
妻:4000万円
長男:2000万円+2000万円=4000万円
次男:2000万円
以上、2つの制度について理解しておくとよいでしょう。
出典
法務省 民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)
民法903条(特別受益者の相続分)民法第904条の2(寄与分)
執筆者:新美昌也
ファイナンシャル・プランナー。
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