世紀経済全体に影響を与える可能性もあるトルコ・リラ急落の原因とは
ファイナンシャルフィールド / 2018年10月5日 2時30分
8月にトルコの通貨トルコ・リラが急落しました。トルコの通貨と言われてもなかなかピンときませんが、成り行き次第では、世界経済全体に影響を与える可能性も指摘されています。 トルコの経済情勢とその影響について考えましょう。
高成長を続けたトルコ経済
2000年頃までトルコは激しいインフレに見舞われていましたが、1万リラを新1リラに変更するという大胆な通貨切り下げによって経済は安定しました。その後は外国からの投資が増え、高成長を続けています。日本でも、トルコへの株式投資やリラ建て債券が人気となっています。
ところが最近は不安定な状況になっています。4~5年ぐらい前から通貨が徐々に下落(リラ安ドル高)していましたが、今年に入って一層の下落が進み、8月はパニックのような状況となりました。株式相場も大幅に下落しています。9月にトルコの中央銀行は政策金利を大幅に引き上げて24%としました。その効果もあり、現在は落ち着いていますが、まだまだ油断はできません。
通貨急落の原因
もともとトルコのような新興国は貿易収支が赤字で、それを補っているのが外国からの投資です。外国からの投資が続いている間はよいのですが、ひとたび資金の流入が滞ると、途端に外貨不足に陥ります。すると、通貨は下落し、国内の金利は上昇することになってしまいます。
資金の流入が滞った要因は、アメリカの金利引き上げです。好景気が続くアメリカでは、FRB(米連邦準備制度理事会)が政策金利の引き上げを進めています。もちろん、それでもアメリカよりも新興国の方が金利は高いのですが、その差が縮まると新興国に投資していた資金がアメリカに資金が還流する傾向があります。トルコだけでなく、新興国全般に影響が生じてきています。
そのような状況の中でも特にトルコには、外国の金融機関から不安視される、いくつかの問題がありました。ひとつは、トルコのエルドアン大統領の強気の姿勢です。強力なリーダーシップで経済成長を牽引してきましたが、最近は憲法改正で権限を強化するなど、長期政権の弊害が表れてきました。対米外交でも強気で、人権問題や経済問題でアメリカと衝突しています。
そうなると、トルコの国民自体が自国通貨に不安を感じて、資産を外国に移そうとします。かつて激しいインフレを経験しているだけに、自分の資産を守る意識は高く、それがリラ売り・米ドル買いに拍車をかけました。
今後の見通しと新興国投資
8月に40%も下落したので、トルコ・リラは下げ過ぎとも言えます。短期間に通貨の価値がこれだけ変わるのは、経済状況の変化では説明がつきません。パニックが治まれば元に戻るとの見方もあります。しかし、不安が不安を呼び、さらにパニックが続くこともあります。
そうなると、トルコ・リラだけにとどまらず、新興国通貨全体に同様の暴落が起きる可能性も否定できません。以前の南欧ソブリン危機のような状況になることも考えられます。先に挙げた要因は、トルコに限らず、新興国に共通する点だからです。
ただ、通貨が下落すると輸出がしやすくなり、貿易収支は改善します。それが続くと、その国の経済状況は良くなり、やがて通貨も上昇していきます。たとえ経済危機にまで発展したとしても、数年が経過すると状況は徐々に回復していきます。
新興国は経済基盤が盤石ではなく、経済危機に陥ると、回復まで数年かかることも珍しくありません。しかし、それでも新興国への投資は、高い経済成長や金利を享受することができます。通貨や株価が暴落しても、長期間継続して積立投資ができるのであれば、魅力的と言えるでしょう。
Text:村井 英一(むらい えいいち)
国際公認投資アナリスト
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