東京オリンピックで土地の値段はどう変わる? 路線価は上昇するが実勢価格は下落へ
ファイナンシャルフィールド / 2019年9月11日 10時10分
国が公表する土地の値段を表す主な指標として「土地公示価格」と「路線価」があります。どちらも全国の定点観測により公表されており、2019年は前年に比べ、やや上昇している地点が多くなりました。 土地取引もこれらを基準に行われますが、実際の価格は下落傾向になっている、という指摘があります。
実勢価格をもとに公表される「土地公示価格」
「土地公示価格」は国土交通省が土地取引の実際などを調査し、地点ごとに毎年表示しているもので、実際の取引の際に標準的な指標となる価格です。実際に取引される価格はケースによって変動するため、これらを参考にした平均的で正常な価格になります。
「土地公示価格」は、適正な地価形成に資する目的で、毎年1月1日時点の全国2万6000地点の正常な取引価格を示したもので、3月に公表されます。土地取引時の目安になるだけでなく、不動産鑑定の基礎、さらに競売物件の価格決定などに利用されています。
2019年では、全国平均で前年比0.6%上昇しており、中でも東京圏の商業地は4.7%。住宅地は1.3%上昇しています。しかし地方での上昇率は、商業地で1.0%、住宅地で0.2%の微増に止まっており、頭打ちの傾向がはっきりしてきました。地域による価格格差が拡大しています。
税金計算の基礎となる「路線価」
もうひとつの指標として「路線価」があります。これは、国税庁が相続税など土地関連の税額を決める場合の基礎となるもので、その土地が道路に面した部分の価格です。
土地公示価格よりは少し遅れて毎年7月ころに公表されます。納税時は翌年春になるので、実勢価格が大きく下落してしまうと納税者から苦情が出ます。
そのため相続税・贈与税などについては、土地公示価格の80%程度に、固定資産税、都市計画税などについては、公示価格の70%程度に評価額が抑えられています。
路線価は道路に面している部分の価格を指しているため、2つの道路に面している、道路に面している部分が非常に少ない、といった土地については価格が補正されます。2つ以上の道路に面していると土地の路線価は高く補正され、道路に接している部分が少ない場合は安く補正されます。
また、人口の少ない地域では路線価が決められていない場所もあり、これらについては、公示価格をもとにした倍率方式で税額が計算されます。
2019年7月に公表された実際の路線価を見ると、全国平均で1.3%上昇しており、観光客の増加などの理由で、沖縄県の那覇市や大阪市の一部では、20%を超える上昇となっています。路線価の高騰は相続税などが前年に比較して、増税されることを意味します。
首都圏では、東京都の平均が前年比4.9%を筆頭に上昇基調にあり、東京・中央区の銀座は日本の最高地点で1平方メートル当たり4560万円です。全国的に見ると、大都市では前年に比べ上昇していますが、全国27県でやや下落基調です。
人口減の影響は確実に出る
2020年の東京オリンピックに向けて、首都圏では大規模な開発が進んでおり、また外国人観光客の増加が、特定の地域とくに商業地の地価の上昇に大きく影響したことは間違いありません。
2019年に公表された土地の価格は、2018年、2017年という前の時点の実勢価格も考慮して算出されています。東京の中でも一等地といわれる銀座地区の路線価は、バブル期を上回る数字になっています。
商業地域の路線価の上昇は、周辺地域の商業地はもちろん住宅地に路線価の上昇となって表れています。特に東京では、建設が進んだタワーマンションのある臨海地域や港区・渋谷区など、これまで「高級住宅地」と呼ばれた地域は、路線価が上昇しています。
首都圏の多くの住宅地で、路線価は、前年比で1~3%程度は上昇しています。
しかし東京オリンピック以降は、こうした路線価の上昇傾向は歯止めがかかり、多くの地域で下落基調になるとの推計が増えています。タワーマンションにしても、予想額を超えた取引は、今後少なくなっていくはずです。若い世代の絶対数の減少や高齢化の影響は、とくに地方から確実に進行してきています。
実勢価格の下落で問題も発生
土地公示価格や路線価は、東京周辺の地域でもやや上昇していますが、実際に取引されている価格は下落傾向にあり、多くの地域で始まっています。路線価が上昇しているにもかかわらず、取引されている価格は下がっており、その価格差が縮小、場合によっては今後逆転することも考えられます。
東京オリンピック後を見据え、地価が上昇する要因が少ないと判断している結果といえます。特に路線価は、相続税や固定資産税の税額に直結してきますので、仮に実勢価格と路線価が逆転する事態となると大きな問題になります。
東京の近郊地域を見ても、実勢価格は2018年の初めからすでに下降傾向が見られています。
東京の郊外・横浜市都築区の市営地下鉄の駅前で不動産会社を営む社長は、2018年の初めころから「売るお客さまはなるべく早く! 買うお客さまはもう少し待って!」と不動産売買を希望する顧客に伝え、感謝されているそうです。
この地域は港北ニュータウンとして急速に開発された地域で、物件売買の件数も非常に多い地域です。ある意味では現在の実態を表す縮図ともいえます。
それは競売物件についてもいえます。裁判所の提示する売却基準価格は公示地価などを参考にしており、入札希望者が多い場合は、売却基準価格を大きく上回って落札されることが普通です。
神奈川県で出された通常の競売物件の落札価格は、直近で固定資産税評価額に比べて15%以上も低く売却されているものもあり、地形などが悪い場合は裁判所が提示した売却基準価格よりも、50%以上下回る価格で落札されたこともあります。
公示価格や路線価が実際の取引よりも遅れて公表されるため、現実の取引とのギャップが生まれつつあり、今後論議を呼びそうです。
執筆者:黒木達也
経済ジャーナリスト
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