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引きこもり息子の面倒をいつまで見ればいいのか…シンママが「思わずゲーム機を落とした」息子の一言

Finasee / 2024年4月8日 11時0分

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Finasee(フィナシー)

麻友は広いダイニングテーブルで朝食を食べる。

以前は夫の和志の身支度を手伝ったり、息子の悠輔を起こしたりと慌ただしい朝を送っていた。しかし今はもうその必要はなく、独り朝食を食べ、静かに仕事に行くだけ。

スーツに着替えた麻友は子供部屋をノックする。

「悠輔、お母さん、仕事に行ってくるから。それとご飯は昨日の残りが冷蔵庫にあるから。好きに食べてね」

返事はない。

息子の悠輔は17歳。高校には行ってない。いわゆる引きこもりだ。

日課であるドアとの会話を終えて、麻友は仏壇に手を合わせた。そこには笑顔の和志の写真が飾られている。

和志は1年前、交通事故で他界した。それ以来、幸せだった一家の歯車は急激に狂いだしたのだ。

「あなた、天国で私たちのこと見ていてね」

そう言って麻友は仕事に向かった。

悠輔は家から出ないだけで、部屋に引きこもっているというわけではない。だから夜ご飯は2人で食べることができている。

しかし悠輔は、食事中ずっと携帯ゲームをしているのだ。部屋ではテレビゲームをしている。とにかく悠輔は一日中ゲームだけをしていた。

昔もゲームは好きではあったが、ここまでではなかった。

時間を忘れてゲームをするようになったのは和志が死んでからだ。和志もゲームが好きで、2人でよくやっていた。そのときの2人は親子とというよりは親友に見えた。

そして和志が亡くなってから、悠輔はまるで和志との思い出に浸るようにゲームに没頭するようになる。やがて学校にも行かなくなり、不登校になった。

麻友も悠輔の気持ちが痛いほどに分かっているからこそ、むげにゲームを取り上げることができなかった。

しかしここまでのめり込んでいるのを見ると心配になる。

不登校の息子

麻友は悠輔が学校に行かなくなったとき、ほんの少しだけ安堵していたところもあった。悠輔の雰囲気から高校になじめてないと察していたし、和志を亡くしたばかりだったので、家に誰かがいてくれるということにも安心感を覚えていた。

それが間違いだったと、今は反省している。

不登校や引きこもりが悪いと思ってるわけではない。この状態を当たり前だと思っていることが気がかりなのだ。

いつまでも麻友が面倒を見られるわけではない。必ずいつの日か、社会に出ないといけない日が来る。

しかしそのことを伝えようとしても、麻友にも何という言葉が適当なのか分からないのだ。

「悠輔、食事中はゲームを止めなさい」

「……ああ」

悠輔は嫌そうに返事をすると、無表情でご飯を食べる。おいしいも何も言わない。

「悠輔、学校行かなくてもいいけど、勉強くらいはしないとダメよ。ゲームばっかりしてても将来役に立たないんだから」

「……ああ」

悠輔の淡泊な返事にいら立つと同時に、麻友はこんなつまらない言葉しか出てこない自分自身を嫌悪する。

無味乾燥な食卓の沈黙を埋めるように、チャイムが鳴った。

すると、悠輔は急いで部屋に逃げるように帰っていく。おそらく誰が来たのか分かったのだろう。

麻友がゆっくりとドアを開けると、そこには同じ高校に通っていた博樹の姿があった。中学も同じで家が近いこともあり、こうしてプリントなどをいつも届けてくれてる。

「すいません、夜分遅くに」

「いいのよ。いつもごめんね。悠輔に渡しておくから」

「あ、は、はい…」

それだけ言い残して博樹は去って行った。

向き合うことから逃げてはいけないとは思っていた。このまま高校に行かせないという選択肢はない。

しかし悠輔が高校になじめていないのは何となく気付いている。

だからこそ、今の悠輔になんと言ってあげればいいのか分からず、立ち往生し続けている。

そんな生活がしばらく続いた。

床に落ちたゲーム機

麻友は身を粉にして働いた。働いているときだけは、夫の不在を考えなくて済んだ。最初はただ必死だった。しかし考えなくて済んでいても、麻友の心は確かにすり減っていた。

疲れて家に帰っても、まだ仕事が残っている。無口な息子のために料理を作り、掃除をし、洗濯をする。

しかし悠輔はそれを当たり前のように享受し、自分の好きなゲームだけをやっている。

いつからか、そんな悠輔に対して不満を持つようになってしまった麻友が限界を迎えるまでに時間は必要なかった。

その日、後輩のミスが原因で遅くまで残業をすることになった麻友が疲れた身体を引きずるようにして家に帰ると、時計の針は11時を過ぎていた。

相変わらず、悠輔の部屋からは明かりが漏れている。麻友はスーツのまま、ソファに寝転がった。すると珍しく悠輔がリビングにやってきて、麻友に近づいて来た。

「ご飯は? 腹減ってるんだけど」

ほんの一瞬、息子の言っている言葉の意味が分からなくて返答に詰まる。

「あ、ああ、あの、ちょっとお母さん疲れているから、カップ麺とかでいいかな?」

麻友がそう言うと、悠輔ははっきりと舌打ちをした。

「んだよ」

悠輔は吐き捨て、そのまま部屋に戻っていく。

その瞬間に、麻友の中で何かが切れた。疲れていることなど忘れて、悠輔の部屋に押し入った。

「何よ⁉ 私は仕事で疲れて帰ってきてるのよ⁉ それなのに、料理もしないとダメってこと⁉ あんたももう16歳なんだから、1人でそれくらいはやってよね⁉」

悠輔の顔は驚きで引きつっていた。それでも麻友の怒りは収まらない。テレビから流れるゲームのBGMすらも気に障った。

「年がら年中こんなものやって! もっと勉強をしなさいよ!」

麻友は声を荒らげ、ゲーム機の線を引き抜く。怯えていた悠輔が麻友の手を取る。

「止めろよ! 俺が金ためて買ったんだぞ!」

「それだって私たちがあげたお小遣いでしょ! 自分のものみたいな言い方をしないで。あんたは何一つ、自分の力でやってないでしょ!」

「そ、そんなことねーよ! いいからゲームを返せって!」

悠輔が麻友の手を力任せに引っ張った拍子、ゲーム機が麻友の手から滑り落ちた。床が確実にへこむような、鈍い音が響いた。

「ああああ!」

聞いたことのない悠輔の声。麻友は驚いて固まった。悠輔は麻友をにらみ付けた。

「出てけよ! 早く出てけって!」

そして無理やり部屋から押し出され、ドアが鋭く、そして固く閉められた。

●心を閉じてしまった息子と麻友は和解できるのだろうか。そして不登校の理由は? 後編【引きこもり息子との冷戦状態…切なすぎる「不登校の理由」を知った母親の決断は?にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

梅田 衛基/ライター/編集者

株式会社STSデジタル所属の編集者・ライター。マネー、グルメ、ファッション、ライフスタイルなど、ジャンルを問わない取材記事の執筆、小説編集などに従事している。

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