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渡邉寧久の得するエンタメ見聞録 ラストの裏切りがなんとも心地よい、映画「№10」 オランダの鬼才の最新作

zakzak by夕刊フジ / 2024年4月22日 6時30分

通算10作目で、タイトルは記号的に「№10」。オランダの鬼才、アレックス・ファン・ヴァーメルダム監督の最新作だ。先週末に封切られた。

プレスリリースには、「世界中を大混乱に陥れた戦慄の巨大モニタリング・サスペンス」とある。さらにネタバレを避けるための取り扱い注意のワードの説明と同時に、「何も知らないというのは素晴らしいことです。実際のところ、何も知らないのが一番よいのです」という監督のコメントが添えられている。

事前情報をインプットしすぎる見方は普段から避けるようにしているが、何も知らないままで見たら、それこそ混乱におぼれること必至の作品。観客を裏切る、なんてものじゃない展開が待ち受けている。

前半、物語は不倫ドラマとして進行する。舞台は劇団。数々のヒット作品を手掛ける演出家カールがいて、彼の妻イナベルが主演を務める。主演の相手役がギュンター。彼が終始、映画の鍵を握り続ける。

劇団の稽古場。せりふを覚えられない老俳優がギクシャクした雰囲気を作り出す。窮地の老俳優は、演出家カールに密告する。「あなたの妻イナベルと共演者のギュンターはできている」と。

嫉妬心を抑えながら、妻を監視する夫。浮気現場を確認する。だが妻を責めずに、ギュンターからせりふを奪い、端役へと追いやり見せ場を奪う。そのうっぷんを晴らすために、本番当日にとんでもない復讐に手を染めるギュンター。追っ手から逃げる遁走劇が、いつしか前半とは毛色の違う物語に変容していく。それはもう、いやいやいや! というぐらいの驚きで食らいつくのが大変。

見知らぬ男に託される耳なじみのない言語による短いメッセージ、肺がひとつしかないことを知らなかったのかと親を責める娘、謎めいた黒幕の存在と状況を逐一伝える執事、在宅ケアの患者に接近する女装男など、謎が次々にほうり込まれる。それらを総合し、謎を接着するのは、どこから来てどこへ行くのかというギュンターの過去現在未来。

すべてがほうり出されるラストシーンが物語を強制的に締めくくるが、まさにそんな感じで観客も放出に同期される。それがなんとも心地よい。 (演芸評論家・エンタメライター)

■渡邉寧久(わたなべ・ねいきゅう) 新聞記者、民放ウェブサイト芸能デスクを経て演芸評論家・エンタメライターに。文化庁芸術選奨、浅草芸能大賞などの選考委員を歴任。東京都台東区主催「江戸まちたいとう芸楽祭」(ビートたけし名誉顧問)の委員長を務める。

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