TV番組通りの風景に「あー、これがロッテなんや」 1人、2人、3人…練習中に数えた観客
Full-Count / 2024年5月7日 7時10分
■藤田宗一氏は1997年ドラフト3位でロッテ入団…エースに浴びた洗礼
元ロッテ、巨人、ソフトバンクでリリーフ一筋600試合に登板したサウスポー、藤田宗一氏は、西濃運輸(岐阜県大垣市)から1997年ドラフト3位でロッテに入団した。京都府出身で少年時代は地元・関西の阪神ファン。進学した島原中央高校は長崎県、社会人も東海地区だったこともあり、千葉を本拠とするロッテについては「ほとんど何も知らなかった」という。
1997年11月21日、ドラフト3位指名を受けた晴れの記者会見の直後。藤田氏は林教雄監督に怒られた。「お前が通用するか、まだわからんだろう」。25歳にしてプロ入りできる喜びが溢れ過ぎて、報道陣に「僕は打たれません。バッターを100%抑える自信があります」と豪語したからだ。まだプロの世界で1球も投げてないにも関わらず、思わず“本音”がこぼれ出た。
藤田氏は苦笑いで懐かしむ。「100%って言っちゃいましたからね。ボロカスにたしなめられました」。ある意味イケイケ、若気の至り。でも確信には根拠があった。当時の社会人は金属バットを使った。加えて五輪などの国際大会ではプロの参加はまだなく、社会人の選手が主役を張った。高いレベルに揉まれつつ、結果を残してきた自負があった。
「金属バットだと、芯を外しても持っていかれる。だからピュッというボールのキレでフライを打ち上げさせたり、ボールをちょっと動かして詰まらせたり。バットの先よりは根っこに投球が行った方が打たれないんです」。精緻な技術を体得したサウスポーにとって、プロが相手でも木製バットならと考えると、怖くなかった。
ところが、ルーキーイヤーのキャンプは“恐怖”を感じるスタートとなった。
第1次キャンプは米アリゾナ州ピオリア。ロッテで顔がわかる選手は2人しかいなかった。まずは「ジョニー」の愛称で呼ばれた黒木知宏投手(現ロッテ投手コーチ)。同じ東海地区の社会人・新王子製紙春日井(現王子)出身で、1つ年下ながら先にプロ入りしていた。「アイツが18歳の時から知ってます。対戦もしていたので、話したこともあった。黒木の方から『藤田さーん』って駆け寄って来てくれました」。
もう1人は、エース小宮山悟投手(現早大監督)。ただし「コミさんは、名前は知ってはいたんですけど……。サングラスをかけたピッチャーやったな、くらいでした」。顔というより、トレードマークの風貌の印象が強かった。
そのエースから大目玉を食らった。投内連係の練習で、シフトのサインを出し間違えた。サインの複雑さに戸惑っていた。「サイン、ちゃんと覚えとんのかー」の怒声が響く。怖い物知らずの藤田氏も、さすがに「ハイーッ、すいません」と縮み上がった。
■チームも好調も「観客が増えない」…投球練習中に「人が数えられた」
プロの環境に徐々に慣れて迎えた開幕。藤田氏はドラフト会見での宣言通りの活躍を披露した。4月4日の近鉄戦で初の1軍マウンドを踏むと、1週間後の西武戦には初セーブ。5月4日の西武戦では初白星も手にした。「順調な滑り出しでしたね。自信があったんで」。強心臓は少しも揺らいでいなかった。
本拠地・千葉マリン(現呼称はZOZOマリン)特有の強烈な風にも、揺るがなかった。「僕は投げやすく、気にならなかったです。逆にうまいこと利用しました。風に乗せたり、抵抗を使えばいい。ガーッと力んで投げなくても、スピンもかかるし、スッと曲がる。すぐに、わかりましたよ」。“名物”の特徴を早々とつかみ、自らの味方に付けた。
チームも好調な船出だった。4月は11勝5敗と首位通過。そんな中、藤田氏は入団前に抱いていたロッテの印象を思い出していた。
「昔はテレビの『珍プレー好プレー』の番組とかでしか、ロッテを見たことがなかった。当時のロッテのホームは川崎球場だったのですが、人が少ないというイメージしかなかったんです」
実際に入団してみて、本拠地での投球練習中に試した。「観客席を見て1人、2人、3人……と。数えられるんですよ。『あー、これがホンマのロッテなんや。千葉マリンになってもこれなんや』と感じていました。勝ってもお客さんが増えなかったですね」。
現在はCS放送やインターネット配信などを通して、どの球団もファンとチームの距離が接近した。パ・リーグの人気が、セに比べるとまだまだ苦しかった時代があった。(西村大輔 / Taisuke Nishimura)
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