ディズニーアニメの面白さの秘訣? 日本人スタッフが語る労働環境「ブラック企業と真反対」
ガジェット通信 / 2017年6月23日 20時30分
この春、興行収入50億円突破の大ヒットを記録したディズニー・アニメーション最新作『モアナと伝説の海』。MovieNEXがいよいよ7月5日にリリース、6月28日より先行デジタル配信が開始となります。
ガジェット通信では、『モアナと伝説の海』を生み出した、ロサンゼルス「ディズニー・アニメーション・スタジオ」に潜入取材! 今回は、アニメーション製作の中でライティング(照明)を担当する土井香織さんのインタビューをご紹介します。
――土井さんはディズニー・アニメーション・スタジオでライティングを担当されていますが、『モアナと伝説の海』製作の作業で苦労した点はどんなことですか?
水と森の描写で苦労しました。水に関して言うと、透明の水に付随する計算事項があって、それに付随する何億個という点々のオブジェクトあるんですね。それに海ということで水に勢いがあるんで、残像の計算処理が入って……。すごい数の粒子があるので、その計算を間に合わせることが大変でした。で、映画的に全体的に計算時間がものすごくかかるショットが、普通の映画だと数ショットなんですけれども、この映画にしては全編そうなので、ものすごい時間がかかる。
計算時間がものすごくかかるショットが、普通の映画だと数ショットなんですけれども、この映画にしては全編そうなので、ものすごい時間がかかりました。私が携わった作品の中で、一番大変でした。
――その苦労があって映画のあの美しい海が完成していると。
でも、あんなに苦労したのに映画でみると一瞬だなと。私のやったショットがほんの数秒……(笑)。
――(笑)。いやあ、苦労して作られた皆さんはそう思いますよね。
『モアナと伝説の海』の中の海は本当にすごくこだわって時間をかけて作っているので全編に渡って注目していただきたいんですが、例えばモアナがアップになるシーンだとしてもその背景にチラッと海が映っていたら、そこに多大なる時間をかけているスタッフもいるというわけです。
――ディズニー・アニメーション・スタジオともなると、最新のガジェットとかソフトウェアとかすぐに取り入れるんでしょうか?
そうですね。そんなに保守的ではないと思いますね、ソフトウェアとかに関しては。でもお金がある会社なので、自分たちでソフトウェアを作っちゃったりします。
――ああっ、すごい。社内に新しいソフトウェアを開発する部署があると。
すごくお世話になっています。それぞれの部署が要望を出したり、それが本当に要るのか?ということをアンケートを取ってみたりしています。もちろんAdobeとかも使いますけどね。Adobeを使うにしてもプラグインを開発してもらったり自由度はすごく高いです。
――日本と海外を比べるとライティングの技術はどちらが進んでいると思いますか?
2Dと3Dではまた違うと思うのですが、最近『君の名は。』を観て美しいライティングだなといました。3Dでいうと日本だとライティングという部署が無いスタジオもあるので。ちゃんと作ってやっているところもありますけれども、一概には言えないですね。今、日本ではアニメーターになりたい人が減っているとよく言われているじゃないですか。私も日本の実写映画に携わっていたことがあるので思いますが、こういう仕事をするならアメリカとか海外の方が楽かもしれません。
――ディズニー・アニメーション・スタジオと他のスタジオの違いはどんな所にありますか?
私は以前実写映画をやっていたんですけれども、その時は、私の作業はCG部門のトップがチェックして終わりという形だったんです。監督と会うことはまずなかったです。例えばですが、クリストファー・ノーラン監督の映画でCG部門のいちスタッフがノーラン監督と実際に会うことは無いという。でもディズニー・アニメーション・スタジオは全員がここにいる。監督が会社に来るし、都度都度作品の出来上がりを監督がチェックします。なので、監督に直接会って、フィードバックされることが他のスタジオにはない強みかもしれません。距離はすごく近いですね。全体的にアメリカの人々って距離が近いっていうのもあるかもしれませんが(笑)。
――労働環境的な意味ではいかがでしょう?
会社の規模とか公開する規模が違うので日本のスタジオとは一概には比べられないですけれども、ディズニー・アニメーション・スタジオはブラック企業と真反対の会社だと思います。「ワークライフバランス」というのを口酸っぱく言っていて、自分の身を粉にして働くということはないですね。休みもしっかりとります。
忙しい時も残業するときにはプロダクションの許可がいるんです。『モアナと伝説の海』の時には4、5か月くらい残業はしていましたね。でももちろんその時に、家族で何かあったら帰ってもいいし、例え誰かが欠けても、それでうまくいかなくなるということはないので、絶対にだれかがカバーするという。実際にこの映画を作っている時にライティングのトップの人が家で療養しないといけない時期があって、それで2、3週間休んでということがあったんですけれども、その代わりをする方ももちろんいました。
――ディズニーが世界中で愛される理由はどこにあると思いますか?
ストーリーだと思います。映画の中でCGとか細かい設定とか、実作業する人って、お金をかけて人を増やせば終わることは終わるじゃないですか。でもストーリーは作業ではないので、いくらやっても良くならない事もあるんですよね。完成前のスクリーニング(試写)では、「これはイマイチだろ」という時も正直あるんですけれども、最終的にうまくまとまるのが本当にすごいと思います。ストーリーには絶対的に時間をかけるというところが他のスタジオと違うと思いますね。
――土井さんはプライベートで映画を観る時もやっぱりライティング技術に注目しちゃうんでしょうか?
見ちゃう事もありますね。あ、お金がなかったのかな、と思ったりはします(笑)。最近観た映画で、このライティングがすごかったと思ったのは『アーロと少年』(ピクサー・アニメーション・スタジオ)です。物語はちょっとあれでしたけれども、背景がとても美しかったです。
あと、技術が素晴らしかったり評判の良い映画は社内の試写室でみんなで鑑賞することもあります。先ほど話した『君の名は。』も私は劇場で観ていて「社内で観ましょう」と提案して。それが通ったのか分かりませんが、スタッフみんなで観ました。「fucking great!」って興奮していました(笑)。
――今日は大変楽しいお話をどうもありがとうございました!
『モアナと伝説の海』
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