[SEVENDAYS FOOTBALLDAY]:苦しさのなかに咲く花(関東一・小野貴裕監督)
ゲキサカ / 2016年11月22日 19時0分
東京のユースサッカーの魅力、注目ポイントや国内外サッカーのトピックなどを紹介するコラム、「SEVENDAYS FOOTBALLDAY」
電光掲示板に表示されていた数字が消える。スコアは1-0だったが、不思議と勝利は確信していた。「『こうやってゲームって終わるのかな』と。初めてなので『選手権で優勝するタイミングってこういう感じなのかな』って自分でも首を傾げながら」タイムアップを待つ。10年間追い求めてきたその瞬間が、間近に迫ってきたにもかかわらず、頭の中は不思議とクリアだった。主審が試合終了を告げるホイッスルを吹き鳴らす。苦楽を共にしてきた江口誠一郎部長と抱き合った。それでも、小野貴裕の頭の中は不思議とクリアだった。
群馬FCホリコシで選手キャリアにピリオドを打った小野は、06年に関東一高サッカー部へ正式に招かれる。以前の同校サッカー部はブラジル人留学生を抱え、彼らの能力とフィジカルに頼るようなスタイルを採用していた。一定の成果は挙がったものの、そのスタイルに限界も感じていたスタッフ陣は、小野の招聘前後から個人と技術を組織に昇華させる『見ていてもやっていても楽しいサッカー』に舵を切る。丁寧なスカウティングも実り、徐々にタレントも集まり出した。その効果はてきめんに現れる。小野が監督に就任した10年には選手権予選で4年ぶりに西が丘まで勝ち上がり、最後は名門の帝京高に0-2で屈したが、翌11年は関東大会予選で東京の頂点に立つと、T1リーグ(東京都1部リーグ)も制してしまう。その執拗なまでにドリブルやショートパスにこだわるサッカーは、明確に現れ始めた結果に比例する形で評価を高めていく。当時の小野は31歳。青年監督の前途は洋々たるもののはずだった。
優勝候補の一角として迎えたその秋の選手権予選。3試合で17得点という驚異的な攻撃力を引っ提げ、関東一はファイナルまで勝ち上がる。相手は都立東久留米総合高。2点をリードされた後半39分から同点に追い付く粘りを見せたが、最後はPK戦で涙を飲む。渋谷飛翔(横浜FC)や星清太(東洋大)など全国レベルの素材を揃えた12年は、プリンスリーグ関東で経験値を積み、満を持して挑んだ選手権予選でも準々決勝で東久留米総合にリベンジを果たし、2年前と同様に西が丘で当たった帝京も2-0で下した。2年連続のファイナル進出。あらゆる条件は整っていた中、結果は実践学園高に後半終了間際に決勝点を許して、またも全国切符の獲得は幻に終わった。このあたりから小野の思い描いていた未来予想図と現実が少しずつ乖離していく。
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