『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:幸せな時間(東京朝鮮高)
ゲキサカ / 2017年11月9日 20時25分
準々決勝の東久留米総合高戦。2回戦同様に大雨の中で行われたゲームも、PK戦までもつれ込むことになるが、この一戦で活躍したのは延長後半終了間際に“PKキーパー”として送り出されたカン・ブラマ。「練習の時から確率的に止めている」と指揮官も評価する2年生GKは、相手のキックを2本ストップ。見事なパフォーマンスで準決勝への切符を手繰り寄せる。「上のことは言わずに、もう目の前の試合だけで来た」と姜監督。“団結力”“気持ち”“雰囲気”をチーム全員で意識してきたから、きっとこの舞台まで辿り着いた。
後半37分。プ・チウがラインの裏へボールを蹴り込む。懸命に伸ばしたチョン・ユギョンの右足から放たれたループシュートは、ゆっくりと、ゆっくりとゴールネットへ吸い込まれていく。「普通だったらそのまま3-1で終わっている」(姜監督)試合は、3分間で3-3へスコアを変えた。西が丘、沸騰。赤で染まったスタンドが揺れる。「学校も凄くバックアップの態勢を整えてくれて、一体感を持ってやっていただいたことで、ああいう応援が彼らをもっと上へ突き動かしてくれたんじゃないかなと思います」(姜監督)「応援は全校生徒が来てくれて、追い付けたのは“気持ち”の部分だと思います」(ハン・ヨンギ)。応援席も含めた“団結力”で、スタジアムの“雰囲気”を完全に支配してしまった東京朝鮮。80分間が終わり、勝敗の行方は延長戦へと委ねられる。
延長前半3分。関東一が記録したゴールは、そのまま決勝点となり、東京朝鮮の全国を目指す冒険は終焉を迎えた。スタジアム中が、目の前で繰り広げられた壮絶なゲームを少しずつ受け入れ、大きな大きな拍手がスタンドに広がっていく。溢れる涙をこらえ切れない選手たちに続いて、一番最後にピッチから戻ってきた姜監督に通路で声を掛ける。選手と一緒にロッカーへ入るか否か、一瞬逡巡したように見えた指揮官は、チームのスタッフに「アイツら、思い切り泣かせておいてください」と告げ、先に取材エリアへ入ってきてくれた。
試合を振り返っていく中で、時折笑顔も覗かせていた姜監督だったが、同点に追い付いたシーンのことに話題が移ると、少し話のペースが落ちる。ふと4月に彼から聞いた話を思い出す。「今シーズンに臨むに当たって全員でミーティングを開いて、『試合に出る選手だけじゃなくて全員で戦おう』と。それで気持ちを1つにして臨むという所からやって、まだまだ足りない所もあるんですけど、応援してくれている子たちも含めて、1つになっていっている過程なんです」。その時はまだ過程の中にあった彼らはこの100分間、間違いなく全員で、気持ちを1つにして戦っていたように思う。「選手を5人替えられたのは、信頼して出せたのは… この子たちが… すみません… 成長したんじゃないかなと思います…」。言葉が続かない。いつもハキハキと、溌溂と話してくれる姜監督は、高ぶる感情を抑え切れず、そっと目尻を拭った。
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