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『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』: “まだまだ”のキャプテン(前橋育英高・田部井涼)

ゲキサカ / 2018年1月12日 7時5分

 帰ってきた埼玉スタジアム2002のミックスゾーン。「昨日は3点で、今日は6点取ったので、『俺がいるより点取ってんじゃん』という気持ちはありますけど(笑)」とキャプテンは笑顔でそう語る。涼が不在だった準々決勝と準決勝に、それぞれ3-0と6-1で勝利した前橋育英は、とうとう1年前と同じ舞台に辿り着く。涼は外から見ていたからこそ、改めてチームの“今”を客観的に見つめることができた。「たぶん自分が厳しいことを言ってきて、『何だよ』と思っていた選手もいると思うんですけど、それでも自分とシオに付いてきてくれましたし、チーム一丸となって厳しいことも辛いことも乗り越えてきたので、自分がいなくても大丈夫だったのかなと思います」。

 数えきれないほど悩み、葛藤してきた。心を鬼にして、仲間を叱咤してきた。その過程は気付けばチームを、彼がいなくても一丸となって戦える位置にまで引き上げていた。そのことが何より嬉しかった。自身の想いが報われたか否か。その手応えを問われた涼は、それでもこう口にする。「そう思えるのは日本一になってからだと思います。厳しい試合を勝ってきたのは、私生活の徹底だったりとか、本当に積み重ねが出たのかなと思いますけど、最終的に結びつくのは日本一なので、日本一になってから、『あの時にあんな厳しい言葉を言って良かったな』と思いたいですね」。すべては、あのスタジアムで日本一になるため。すべては、このチームで日本一を獲るため。その想いを結実させるべく、とうとう最後の1試合が幕を開ける。

 スタジアムにはまだ、直前に生まれた劇的な先制ゴールの余韻が残っている。1秒ずつ時間が消えていく。1秒ずつ終わりが近付いてくる。そして、タイムアップのホイッスルが曇天の空に吸い込まれた。膝の力が抜ける。視界が滲む。「安心感が一番ですね。ここで負けてしまったら本当に1年間やってきた意味がないので、ホッとした涙が出ました」。夢にまで見た日本一。1年前は下から見つめることしかできなかった、表彰台の真ん中で優勝旗を掲げる。高校サッカーのエンディングには、このチームのみんなで見ることを願い続けた「あの景色」が待っていた。

 大勢のメディアに囲まれる中、可能な限り質問者の方に体を向けて答える姿に、日本一のキャプテンが培ってきた人間性が滲み出る。少なくとも“反旗”の頃の名残は微塵も感じられない。実は最後の選手権に入ってから話を聞いてきた中で、1つ気付いたことがあった。以前はあれだけ頻繁に登場していた“まだまだ”と“もっともっと”は、ほとんど涼の口から発せられなくなっていたのだ。バスの出発の時間が近付いてきた。絶対に聞きたかった質問をぶつける。「日本一になった今でも、“まだまだ”と“もっともっと”って思ってる?」。

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