『SEVENDAYS FOOTBALLDAY』:光の射す方へ(関東一高・佐藤誠也)
ゲキサカ / 2019年5月15日 19時50分
4月27日。関東大会予選準決勝。本大会出場の懸かる大事なゲームで、國學院久我山高にボールを持たれ続けたものの、スコアレスで推移した前半終了間際に、関東一はフリーキックを獲得する。ゴールまでの距離は約25メートル。スポットに立った佐藤はその時、圧倒的な雰囲気を纏っていた。
「もう、何て言うんだろう。外すとか思わなくて、『決まるだろう』という感じはあったんです」。2週間前を知る者は、おそらくその空気を敏感に感じ取っていたかもしれない。本人と周囲が想像した“デジャヴ”は現実のものとなる。佐藤のキックは再び完璧な弧を描いて左スミのゴールネットへ吸い込まれる。
「壁に入る味方の位置をちょっと修正して、田畑GKコーチから壁の作り方や、キーパーをどう隠すかをいつも教えてもらっているので、それ通りにやって決めた感じです。キーパーも見えてなさそうだったので、『入るだろう』って思いました」。高校生が加速度的に得ていく自信は、かくも人を変えるのだろうか。8番の背中は1か月前より遥かに大きく見えた。
ところが、後半に入ってよりアクセルを踏み込んだ國學院久我山は執念で同点に追い付き、延長前半には逆転ゴールを奪い取る。少しケガを抱えていた佐藤は、延長後半開始と同時に交替を命じられ、敗戦の瞬間はベンチから見守った。「こういう苦しい展開でもっとゲームを落ち着かせたいですし、この試合に負けているようではダメだと思います」。個人の結果とチームの結果は必ずしも常に結び付かないことを、このタイミングだからこそ、サッカーの神様は改めて彼に教えたのかもしれない。
試合後の佐藤は冷静に言葉を重ねていた。「やらせちゃいけない所で最後に緩んだというか、歴代の先輩たちはそういう所を拾って拾って勝ってきたので、まだまだこのチームは全然足りていないと思います」「今年のチームはサッカー観を合わせて、しっかりコミュニケーションを取っていかないと、この先は勝てないと思います」。個人よりグループを意識した発言が多い。チームに自分をどう溶け込ませるか。その中でどう自分を出していくか。佐藤はきっとそのバランスのヒントを、もう掴み始めているような気がしてならない。
差し込む光が眩しければ眩しいほど、目を開け続けることは難しい。かつての光が眩しければ眩しいほど、今の暗闇を知ることの怖さから、逆に瞼を開けることは難しくなっていくのだろう。それでもかつての光を知る者は、その眩しさの意味を理解している。再び差し込み始めた明るさを瞼が察した時、それを閉じ続けるのか、勇気を持って開けるのかは、間違いなく自らに委ねられている。
「輝けない時期がずっとあって、徐々にポジションも奪われて、『このまま落ちてっちゃうのかな』って焦りはあったんですけど、『自分が最後はやってやるんだ』みたいな気持ちは常に持っていたので、これからのし上がっていこうと思っています」。佐藤誠也が再び瞼の裏側に感じた光の射す方には、きっとさらなる新しい自分が待っている。
■執筆者紹介:
土屋雅史
「(株)ジェイ・スポーツに勤務。群馬県立高崎高3年時にはインターハイで全国ベスト8に入り、大会優秀選手に選出。著書に「メッシはマラドーナを超えられるか」(亘崇詞氏との共著・中公新書ラクレ)。」
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SEVENDAYS FOOTBALLDAY by 土屋雅史
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